SANKOU

崖上のスパイのSANKOUのネタバレレビュー・内容・結末

崖上のスパイ(2021年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

舞台は1943年の満州国。
特務警察は反日活動を行う人間を徹底的に弾圧していた。
冒頭、雪によって白く染まった森に、四人の男女がパラシュートで降下してくる。
それぞれの降下してくる者たちの目線によるダイナミックなカメラワークが、彼らを待ち受ける過酷な試練を予兆しているようだ。
四人はソ連で特殊訓練を受けたスパイで、ウートラ計画という極秘作戦を実行するために現地に送られた。
チャン・シエンチェンとワン・ユーは夫婦、そしてチュー・リャンとシャオロンは恋人同士らしく、作戦はチャンとシャオロン、ワンとチューの二手に別れて実行されることとなった。
それぞれの伴侶、恋人と別れて旅立つ四人。どうしても悲劇的な展開を予想せずにはいられない。
やがてチャンとシャオロンは案内役の二人と合流するが、程なくしてチャンは彼らが特務であることを見抜く。
交戦状態になるが、何とかチャンたちは特務の二人を撃退する。
特務が反日分子を処刑する場面があるが、そのうちの一人は恐怖に耐えられずにすべてを話してしまう。
そこからどうやら作戦の秘密がバレてしまったようだ。
ワンとチューにも危険を知らせるべく二人は、同じく案内役を騙った特務と行動を共にするワンたちの行方を追う。
映画は作戦を実行する四人の視点と、それを阻止しようとする特務の視点でスリリングに展開していく。
スパイ映画にありがちな人間関係の複雑さによる混乱はあまりなく、ストレートに物語を楽しめる作品だった。
観客に伝わる情報量も絶妙な案配で、常に次の展開がどうなるのか予想がつきにくくてハラハラさせられる。
お互いに手探り状態で、相手を出し抜こうと画策する様もスリリングだ。
やがて作戦の目的も分かってくるが、それは秘密施設からただ一人逃れ、匿われている同士を救い出し、日本軍の蛮行を世に知らしめるためだった。
ウートラ計画のウートラとはロシア語で夜明けを意味するようだ。
どんなに長い夜もいつかはきっと明ける。
中国の未来のために、一人の男を救うために、命をかける四人の姿がとても切ない。
そして極秘のスパイ作戦のためにチャンもワンも二人の子供と離ればなれになっているという事実も。
どうやら彼らの子供はハルビンの路上で物乞いをしているらしい。
それを知っても作戦中の彼らにはどうすることも出来ない。
しかしチャンは高級ホテルの前で物乞いをする自分の息子らしき少年を前に心が揺れ動いてしまう。
その一瞬の隙をついてチャンは特務に捕まってしまう。
ここから一気に形勢が特務側に傾く展開も予想されたが、特務の中に潜入していた思わぬスパイの存在が明らかになってから、物語はまた新たな展開を迎えていく。
後半まで集中力の途切れない作品で、それぞれの登場人物のキャラクターも魅力的だった。
特にまだあどけなさの残るシャオロンの存在がこの作品の要かなとも思った。
ただ前半は彼女の活躍が目立つが、中盤からは少し蚊帳の外に置かれてしまっているような気がした。
彼女にもっとフォーカスが当たっていれば、より悲劇的でドラマチックな作品になっていたかもしれない。
シャオロン役のリウ・ハオツンはチャン・イーモウ監督の新しいミューズなのだろうか。
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