マーフィー

弟は僕のヒーローのマーフィーのレビュー・感想・評価

弟は僕のヒーロー(2019年製作の映画)
4.5
2024/01/27鑑賞。

「スーパーヒーロー」に助けられ、成長していく少年の物語。
弟がキーマンではあるけど、あくまでも兄ジャックの青春時代の物語。そこがいい。
内容は色々あれど、思春期に自分で勝手に恥ずかしいと感じて周りに隠すことは誰にでもあると思う。
そういう微妙な気持ちが、フランチェスコ・ゲギ演じるジャックの内面によく出ていると思う。
やったことがやったことなので、途中その微妙な気持ちを周辺が上手く理解してあげられてなかった感は否めないけど、
そういうもんなんだよなー思春期の気持ちって。
「分かってくれよこの気持ち!でも簡単に分かったつもりになってんじゃねえよ!」というアンビバレントな感じが思春期だと思う。
そんなシーンはないけど、ジャックがやったことをクソデカにすることで必然的に「分かってほしいのに分かってもらえない」という状況が生まれてると思う。

ただきょうだい児の気持ちは分かってほしいよね。
それだけに母が「(ジョーには)私たちがいなくなってもあなたたち(きょうだいたち)がいる」というシーンはなんとも言えない気分にはなった。


絶望のような表情をするけど、子どもたちに会った時に
すぐに明るく振る舞う両親には、親としての強さを感じた。
そこからのジョーの障害についての明るい説明がすごくいい。
子どもに嘘をつかずに、それでいてジョーのことを前向きに捉えられる表現。
これは言う両親も、自らを鼓舞するような目的が無意識にあったかもしれない。
「元気過ぎて染色体が1本多い」とかめちゃくちゃ気の利いた表現だと思う。
「他の人と違う特別」とか、「人より子供の時間が長いかもしれない」とか。
正しいことを伝えながらも、表現がポジティブ。
それゆえジャックはジョーが障害のある子ということに気づくのが遅れるけど、
子どもが偏見なく障害というものを受け入れる過程では、良い方法のひとつなのかもしれない。

日本でいう発達検査のようなもののシーン。
補助を受けたい両親と、ジョーの能力を純粋に喜ぶジャックの表情の対比が良い。
ただ日本の発達検査や区分認定調査と違ってだいぶアッサリしている印象で、本当にこんな感じで障害者に対する補助が決まっていくんだろうかと思った。

ジャックが嘘をついていることを気にしてるが故に、一瞬ハッとさせられるアリアンナの何気ない質問が上手い。
「嘘をついてたのね。…いつからドラムを?」みたいなやつ。

親友のヴィットの存在が実はものすごく大事だと思う。
学校で唯一ジャックのことをよく知っていて、一番近くにいる友人で、かつジョーと友人として対等に接する。

そこがあまり描かれないのは少し残念だけど、
バスケコートを2人で取り返そうと言うシーンだけで、何があっても心の底には揺るがない友情があることがスッと分かる。
ジャックもヴィットとのやりとりを通して「ヴィットは一番大切なことは何かを知っていた」と分かったのだろうな。

ジャックがみんなの前で嘘を告白するシーン、後ろに見つめるヴィットが映り込んでいるのがすごく良かった。



ダウン症は過去には「蒙古症」と呼ばれていたそうで(https://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/prdl/jsrd/norma/n357/n357014.html)、弁護士のピニンが使用する。パンフレットのエッセイにある通り、これは弁護士の無知、無理解の表現としてのセリフだと思う。
不適切な表現ではあるが、それを逆手にとった使い方で私は良いと思う。

その他パンフレットには「ダウン症のイケメン」あべけん太さんを交えたトークイベントの様子が掲載されており、『かぞかぞ』のカメオ出演ぶりにけん太さんの活躍を目にすることができて嬉しかった。
今一人暮らししてYouTubeチャンネルもやってるんや…知らんかった。
これが読めただけでもパンフ買って良かった。





偶然にも幼少期の家族の車が赤いボルボで、ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』を思い出した。



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