このレビューはネタバレを含みます
一家四人が暮らす家に混じる謎の男“健太郎さん”。
不穏な空気の漂う家庭内にただただ鎮座する不気味な男の正体は…というホラー・サスペンスの短編作品。
“異物”という存在の持つ不気味さを主軸にした作品。
無言、無表情、それに加えてスパゲティの食べ方がやたら汚いおじさんとか、不気味すぎて不気味すぎて、でもそのおじさんに対する好奇心は湧いてくるもんだから人間の感情とは不思議なものです(笑)
この作品、一見ホラーテイストで描かれているけれど、明確な説明がないのでいくつかの解釈が出来そうな作品です。
一つは、病院から脱走した健太郎さんの家族に対する復讐。
轢き逃げの罪から逃れようとする家族。
そんな家族への復讐は、通報して逮捕させる事ではなく、自分が家族の中に紛れ込む事。
罪の象徴である自分がそこに存在するだけで家族を崩壊させる事が出来るという寸法です。
さらにはその家族の少女を失った自分の娘の代理として手に入れる。
いや、もしかしたら健太郎さんの本当の目的は、家族を崩壊させる事そのものよりも、娘の代わりを手に入れる事だったのかもしれません。
もう一つは、健太郎さんは家族の罪の共通意識が生み出した幻や亡霊だという解釈。
犯した罪の意識はどんなに忘れようとしても、いやむしろ忘れようとすればするほど膨れ上がって自身の心を蝕んでいく。
そして家族それぞれの心の中に生まれた負の感情が家庭を崩壊させていく。
因果応報の物語。
こういう解釈に幅のある作品は好きです。
まぁどちらにせよラストの健太郎さんの不気味な笑顔には、この家族の不穏な未来を感じざるを得ませんけどね…。
轢き逃げ、良くない!