Masuo

くじらびとのMasuoのレビュー・感想・評価

くじらびと(2021年製作の映画)
5.0
絵でしか見たことがなかった古式捕鯨を、まさに目の前で見ているような作品に鳥肌が立った。

私の地元はかつて古式捕鯨で栄えた町。手漕ぎの小さな舟と銛で何十人もの人々が、自分たちよりはるかに大きな鯨を海の上で狩る、そんな絵を昔から見てきたが、私はいつも「当時の手作りの木造の小さな舟で、エンジンなど機械も何も無いような環境で、ほんとに人間がこんな大きな鯨を獲っていたのか?」と疑問に思っていた。

けれど今でも、まさにその古式捕鯨で生活している人々がインドネシアの小さな島にいて、私は自分の地元の歴史と重ねながらこの作品を観た。

この映画は、捕鯨だけではなく、グローバリズムによる少数文化の消失や、生命の本質も問う。

文化の消失に関しても、まさに地元の問題と重なる。人口減少やグローバリズムに抗う術はないのか?と思ってしまう。とりあえず一個人にできることは、記録に残すことだけなのか....

ロープ編み?の歌に関しても、日本ではかつて同じように農作業のときに歌が歌われていたが、今ではほとんど消失してしまったのと重なる。私の地元でも、昔は米を搗く(臼で脱穀する)する時に歌われる「米搗き唄」があった。様々な農作業中にみんなで歌う歌が全国にあったはずだが、作業が機械化して、村全体ではなく個人の作業になってしまった現代では、そんな歌は歌われない。そんなことを思った。

しかも私の親は造船をしているので、映画の中で、船大工が伝統を守り意味を理解して舟を作っていることにも感じ入った。そして舟も生きているというのは、漫画ワンピースにも描かれてる!と気付いてそのシーンを思い出すと、理解が深まった。(笑)


美しすぎる映像。迫力とリアリティがものすごくて息を呑む。そのリアルさゆえ、死も生々しく描かれているので、観ている者をも悲しみが襲う。

今パンフレットを観ながら、昨日観たばかりなのに、すでにもう一回観たくなっている。

尊い。

石川梵監督、ありがとう。
Masuo

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