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The Son/息子のmoeriのレビュー・感想・評価

The Son/息子(2022年製作の映画)
4.2
これが鬱に苦しむ人の世界。
そう言えるほどリアルに緻密に描かれていて、思い当たる節があると、モロにその感情に引きずられる。
一度鬱になったり近い経験をした人には、あまりオススメしたくない映画。

感想がうまくまとまらないので、思いつくままに書きます。
全役者の演技が秀逸、脚本も容赦ない。

親子や血の繋がりがあれば自然と信頼関係が築かれる、わけではないのですよね。
あくまで一人の人間同士だから、子供と親の個性を認めるために対話が必要なんだけど、ヒュー・ジャックマン演じる父親ピーターは、それがうまくできない。

大人だって、怒りや不快感をうまく言葉にして折り合いをつけることは難しい。まして多感なティーンエイジャー、そして多分ニコラスは自分についてのアウトプットが苦手。 心配させまいとついた嘘が、さらにピーターから追求される事態に…。

子供の頃の出来事などさっさと乗り越えろ、というピーターの父親(アンソニー・ホプキンス)。ベスの「人生は続く(だから受け入れて前を向いて)」というのも酷なセリフだ。二人ともつよつよメンタル。

精神疾患は、普段できていたことが何故かできなくなる。心の病と言われるが、本来は強いストレスにより脳の働きが衰える病です。
まさに「自分で自分がわからない」状態。
苛立ちと行き場のない不安に押しつぶされそうで、自分を傷つけることでバランスを取ろうとすることも。

結局何が原因になるか、何がトラウマになるか、それを受け入れて自分の一部として認められるかどうかは人による、としか言えないんですよね。
人生を受け入れられない人もいる、と理解することが、苦しむ人を理解する一歩になるといいなぁと思います。
そして、周りで苦しむ人がいたら、まずはカウンセラーとか心療内科に繋げてほしい。
愛の力では、脳の機能低下はどうにもできない。

エンドロール後、15〜19歳の死因トップが自殺で、思い当たる人は支援団体に連絡してね、的なテロップがしばらく流れました。
この英文を何故、和訳しなかったのか…。
1〜2分表示されていたけれど、あの量の英文をサラッと読める日本人は少ない。救いがないまま終わってしまう。

自殺は本当に良くない。
本人にとってもそうだし、残された人に強制的に苦しみを引き継がせるから。

ゼレール監督のインタビューを読んだら、少し落ち着いた気がします。
鑑賞後、つらい気持ちが続くようなら読んでみてください。
https://ginzamag.com/interview/theson-florianzeller/
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