エブリデイねむろう

ミラベルと魔法だらけの家のエブリデイねむろうのレビュー・感想・評価

ミラベルと魔法だらけの家(2021年製作の映画)
4.0
ディズニー長編アニメーション60作目。
「モアナと伝説の海」以来のミュージカル・ファンタジー。

コロンビアの奥地に佇む魔法の家。
そこに住むマドリガル家の一族は、家から1つユニークな《魔法のギフト》をプレゼントされる。
しかし、その《ギフト》をもらえなかった少女ミラベルは、それでも家族と幸せな生活を続けていたのだが…。

日本語吹替版にて鑑賞。
やっぱり字幕で観ればよかった!

これは別に声優disということではない。
むしろ本作の吹替はすばらしかった。
中尾ミエ演じるアルマおばあちゃんのハスキーボイスは本当に魅力的だし、力持ちのルイーサを演じたゆめっちも完璧なハマり役。
しかも歌がめっちゃうまい!
タレント吹替にアレルギーを持たれるかたは多いだろうし、私もそのタイプの人間ではあるのだが、少なくとも本作においては安心して鑑賞していただけるものと思う。

私が吹替版で失敗だと感じたのは、ミュージカル部分の日本語が聴き取りにくいという点だ。
本作はミュージカル映画であるため、当然、歌の歌詞が物語の展開に関係してくる。
が、当たり前の話だが、元は英語で構成されている歌詞を強引に日本語化しているため、場所によって歌詞がとんでもない早口で飛んでいってしまうのだ。
これが字幕なら普通に追いかけられたのになと思うと、やや失敗かなと感じてしまった次第。

ただ、フォローを入れておくと、ぶっちゃけそこまで厳密に歌詞を聴き取らなければいけないほど複雑な物語ではないし、ミュージカルシーンのあとしっかり普通の会話でフォローが入るようになっている。
まぁこれは、一度の鑑賞でなるべく多くの情報を把握しておきたいと考えるケチなオタクのわがままと捉えてもらって構わない。

むしろ、改めて字幕版のほうを観にいくのも悪くはないのではないかというのも本音としてある。
というのも、作中の音楽が非常にすばらしい出来で、天下のディズニーらしい洗練されたアートワークとアニメーションに乗せて展開されるミュージカルシーンは、ただただ圧巻の一言。
むろん日本語版もすばらしいが、劇場で「原曲」を思いきり浴びてみたい。
そんなことを思わせるほどパワーのある作品である。
(とはいえ完璧な日本語化は難しかったらしく原曲ママの歌もいくつかあった)

さて物語のほうであるが、「魔法」を大きなテーマに掲げているわりに内容は「家族の話」であり、スケールは小さめ。
しかし本作については、これでいいと思う。
魔法をもらえず劣等感に苛まれる"持たざる者"の「ミラベル」。
彼女の健気さが序盤で大きくクローズアップされる。
観客の意識は、当然そこから「どのようなサクセス・ストーリーを見せてくれるのか」と期待するのだが、本作のテーマはそこにない。

物語はミラベルの視点をとおして、さまざまなギフトを手に入れた"持てる者たち"の抱える重圧や葛藤にスポットが当てられ、能力を授けられることが必ずしも幸せではないというメッセージが強烈に伝わってくるつくりになっている。
それは、世界観を広げることをせず、あくまで「家と家族の話」に終始することで、先述したメッセージがより強烈に際立つようにしているものと思う。
そして物語は、いつもの「家族愛」に着地する。

この「西洋思想的な家族愛」ってやつは、なかなかに厄介な代物であると個人的には思っているのだが、それでも『徹底的に美しくコーティングされた綺麗事』というやつは人の心を打つのだということを、ディズニーはよく心得ていると思う。
(MCU含め、最近のディズニーはこればっかりな印象はある)

美しい映像と音楽に彩られた心打たれるいつものディズニー映画。