おかだ

私ときどきレッサーパンダのおかだのネタバレレビュー・内容・結末

私ときどきレッサーパンダ(2022年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

ビジュアルで勝ち


「ソウルフルワールド」や「あの夏のルカ」といった超弩級の傑作をことごとく配信公開してきたピクサーの最新作が、ついにスクリーンに帰ってくる。
と思ってウキウキ劇場予告を見て待っていたが、蓋を開けてみればやはり今回も配信公開のみとなった。

そしてその出来栄えは、残念ながらやはり超絶。
前回の「あの夏のルカ」に続いて、劇場公開していれば今年の新作公開映画の暫定No. 1。
何とかして映画館でやってくれないものか。


あらすじは、母親からの期待と重圧に苦しむ13歳の少女メイメイが、ある日起きると巨大なレッサーパンダの姿に変わってしまうというもの。
なんとも突飛なあらすじである。

このレッサーパンダへの変身は、メイメイの激しい感情がトリガーとなっており、これは自己の抑圧と解放の間で揺れる思春期のメイメイの成長をアニメーション映画の特長を活かして描写したというわけだ。
つまり、母親が彼女の変身を生理と誤解したコメディパートが実は芯を食った、いわゆる思春期や二次性徴を主題とした青春映画としての「わたしときどきレッサーパンダ」である。
レッサーパンダ変身以降は、人間の姿の時にも髪色が赤く変貌しており、これは彼女が秘める激情を表した表現なのだろうか。

ところでこのような寓話的アプローチは、初めは意図したものでなく、レッサーパンダを描きたいという圧倒的なビジュアルから着想を得ている点が面白い。
またこの辺りの設定は、ドミーシー監督が日本アニメや漫画からも大きく影響を受けていることを公言しているように、「らんま1/2」や「千と千尋の神隠し」辺りからインスパイアされているのだろう。

長編初監督となるドミーシー監督のアニメーションは、これまでのピクサー映画とはまた一味違った個性的な表現の数々が新鮮だ。
キャラクターの感情表現として使われるデフォルメされた眼は日本の少女漫画のそれのようで、また二次元的な背景描写も独特。
それからライブコンサートのキャラクターのリアクションや、メイメイのお絵描きパートからみる、いわゆるオタク描写の細やかさにも唸らされる。
アニメや映画でありがちな記号的要素としての属性付与ではなく、これはキャラクターの厚みに寄与している部分だとおもう。


それからもう一つのテーマでもある家族の在り方について。

いわゆる毒親ともいうべきメイメイの母と、さらにその親族らの、もちろん愛ゆえの厳しさなのだが、不愉快ラインスレスレの描写が積み重ねられる序盤。
もちろんこの積み重ねがあるからこそ、終盤のレッサーパンダアッセンブル的展開の圧倒的なクライマックスが盛り上がりを増すわけだが、それでも胃がキリキリするような要素だ。

このような、家族の強い結びつきのネガティブな側面をホラータッチで描写するさまは、アリアスターが「ヘレディタリー」で見せたそれに近いものがあるかもしれないし、そんなことはないかもしれない。


しかしそんな小難しいことはいちいち考えるまでもなく、圧倒的愛嬌を誇るレッサーパンダのビジュアルだけで2時間楽しむことが可能。
レッサーパンダに変身してしまうという要素を、普通ならばバレるかバレないかサスペンスに持っていくところ、早々に捨て去ってむしろ商用化してしまうメタ的な展開の太々しさにも納得のビジュアル。

さらにはビリーアイリシッシュ兄妹が手がけた4townの楽曲も耳馴染みが良いし、とにかく楽しすぎる体験でございました。
超おすすめです。
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