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有難や三度笠のotomisanのレビュー・感想・評価

有難や三度笠(1961年製作の映画)
3.7
 くすぐり満載が楽しいナンセンス股旅物。1961年当時の「社会問題」を江戸末期にそっくり置きなおして現代風、歌える旅鴉「いただきの守太郎」にきれいさっぱり片付けてもらうという寸法だ。それに対し、ほんのひと月前の前作「泣きとうござんす」でもそうだが、悪玉が怪しげな看板を張って「問題」を起している。先のは会津若松の「段深一家」(ダンプカー一家)の大暴走交通戦争と地場産業「赤べこ」迫害。で、今回は次郎長が売り出す前日の駿河の国でやくざなんてもんじゃない暴力団「鉄布屋」(テップ屋)に系列の呑み屋「アルサロ かす場」(カスバ)だそうだ。

 「いただきの」に味方するのはまだ誰もご存じない次郎長と当時「ララミー」を名乗ってた空元気な森の石松で、二人が頼りになるやらならんやら、それでも原爆級の守太郎が負けるわけがないので安心だ。加えて駿河は茶処、茶摘み娘が黄色い声で応援もすればテップ屋にデモ隊を組んで押しかけまでする。ひょっとすると、駿河の国風景の中、東海道をクルマが走ってるのぐらい見えるかもしれない。
 次郎長伝を弄り倒して文句があるなら大激怒だろうが、どっこい頓馬な中にも滲み出てる大物ぶりを笑うのも自然の成り行き。怒って笑って、さあどうする。

 ところで、気になるテップ屋だがちっとも分らない。ただ、封切り半年ほど前に「名張毒ぶどう酒事件」が起き、それに使われた農薬がTEPP剤。これは種類も多いがみな強毒性ゆえ当時相次いで登録を失効しており農業関係者には周知の名前だったと思われる。
 テップ屋がカスバで売ってる酒を飲んだララミーの石松が一家の名を聞いて酔いも醒めたよな顔をするのもむべなるかな。なお、同事件は冤罪の疑いで今も尾を引いている。社会問題は生き続ける限り思いもよらない形で顔をのぞかせる。
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