ひろうそん

最後の決闘裁判のひろうそんのネタバレレビュー・内容・結末

最後の決闘裁判(2021年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

決闘による裁判が認められた最後の事件を扱った、史実に基づいた作品。
舞台は14世紀フランス。不器用だが男気ある騎士の美しい妻がレイプされたと訴える。相手は夫の旧友で領主から寵愛を受ける騎士。双方の言い分は真っ向からぶつかり合い、夫と旧友の命懸けの決闘によって判決が下されることになる。
決闘に至るまでのストーリーを夫、旧友、妻それぞれの視点から3章に分けて描く『羅生門』式の構成。


大好きな『グッドウィルハンティング』のコンビが24年ぶりの共同脚本執筆ということで鑑賞。2章までを二人で、3章は女性脚本家ニコール・ホロフセナーが担当。
3人それぞれに信じる真実があり被害者でもあるが、やはり主人公は妻。決闘は正義対悪の対決ではないことに裏切られる。


中世ヨーロッパの事件を描いた作品ながら、扱うテーマは現代的。中世ヨーロッパの豪奢な世界観を借りた「誇張しすぎた現代社会」である。
テーマは2つ。
「真実の脆弱さ」「女性の人権」
それぞれの章での細かなセリフや演出の違いによって認識(それぞれの真実)のズレが明らかになっていく。
また、決闘の勝敗=神の意思ということで真実が決定される横暴さが描かれる。信仰に基づいたあり得ないルールに見えるが、マスコミの報道や大衆の見方によって真実が決定されてしまう現代にも重なるのではないか。

当時は女が男の所有物であることが当たり前の時代。夫の馬の扱い方と重なる。「跡継ぎを産む」という役割だけを求められ、レイプされても泣き寝入りするのが普通。取り調べの場ではレイプ被害者の尊厳が踏みにじられる。「嫌がるフリをしていたが合意の下だった」と信じ切っている加害者。「本当は嬉しかったのではないか?」という質問等、見ていて苦しい。奇しくも事件のタイミングで妊娠したため、「快楽の頂点に達した際に受胎する」という迷信も手伝って妻は追い込まれる。(夫の名誉も)

そして迎えるラストの決闘。重い装備をつけたアクションは手数こそ少ないが大迫力。武器どんどん変わるのも楽しい。
ここでポイントなのは、夫が敗れれば妻も散々な拷問の末に殺されるということ。生まれたばかりの息子も路頭に迷うだろう。自分の名誉のために盲目的に戦う夫もまた、妻にとって暴力的な存在なのだ。それぞれの真実のために命を懸ける男たちが滑稽にも見える。大迫力なのに。
結果、勝利した夫は英雄のように民衆の祝福を受けるが、妻のなんとも言えない表情が、決闘が正義対悪の単純な対立ではなかったことを示す。民衆の盛り上がりがグロテスク。
その後、夫は戦死するが、妻は再婚せずに裕福な暮らしを続けたということで自立して幸せを掴んだことを伺わせるラスト。


『フリーガイ』でヒロインを演じた妻役ジョディ・カマーが鬼の綺麗さ。中世の変な髪型でもえぐい。特別強い英雄的女性ではないというキャラ造形が効果的。3章で涙を見せまくる。それでも戦うのがかっこいい。

アダム・ドライバーがイケメンヤリチンなのは若干違和感あったが、旧友と離れていく中で見せる表情は流石。


名誉のために暴走せず、真実を疑う余地を持って生きます。