ゆめたろう

最後の決闘裁判のゆめたろうのレビュー・感想・評価

最後の決闘裁判(2021年製作の映画)
4.5
文句なしの傑作。今年ベスト級。

原題から「デュエリスト/決闘者」のような剣士バトル映画かと思いきや、性的暴行に声を上げる「mee toムーヴメント」が広がる現代にも通づるフェミニズム映画です。83歳で新たな価値観を更新していくリドスコ爺にあっぱれです。

物語はカルージュ(被害者の夫)、ル・グリ(加害者)、マルグリット(被害者)の視点から語られる三幕構成。黒澤明「羅生門」を下敷きにしていますが、真実は闇の中な羅生門とは違い、明確に真実を提示しています。

そこで面白いのがカルージュ、ル・グリの両者の主観的な都合の良い記憶。男性的価値観に女性の意見が入り込む余地はなく、女性は社会的にも物理的にも閉じ込められる立場。雌馬を厩舎から出さないところなど(優性遺伝の牝馬に襲いかかる雄馬の尻を叩く姿は少し笑ってしまいましたが)

カルージュ、ル・グリの決闘シーンで始まり、両者の真実(記憶)が語られたところで始まるマルグリットの真実。ここで映画の本質的なテーマがぐっと浮き上がります。

城で襲いかかる際に、マルグリットの記憶では階段を駆け上がる途中で「脱げて」いましたが、ル・グリの記憶ではマルグリットは階段を上る際に靴を揃えて脱いでました。あれは中世ヨーロッパでは性行為のアピールや受諾のサインなのでしょうか。
ピエール伯の妻の一瞬の真顔や、シャルル6世の妻の女性的立場からの眉を潜めた表情。所々に細かな演出で女性の生きづらさを表現しています。

マルグリットの真実を観たあとでは、序盤であんなに楽しみに待っていた決闘がどうでもよくなるというか。両者ともに男尊女卑の最たる人物だし(中世という時代背景は置いといて)、もう両者相打ちして死◯でくれや!と思いましたが、カルージュが負けたらマルグリットも吊るされてしまうし...あぁ何というジレンマ。

決闘後もある種の地獄が待っているととらえましたが、エンドロール前の息子の姿と後日談で少し心が救われました。普段は後日談エピソードは説教臭くて反対の立場ですが、マルグリットのせめてもの私生活での解放だったのかなと。