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最後の決闘裁判のWILDatHEARTのレビュー・感想・評価

最後の決闘裁判(2021年製作の映画)
2.0
『心が無ければテクニックだけになっちまうぜリドリー爺。』


同一の出来事を三者三様の視点で描いて見せる作りが肝になっている映画なんだろうけど、残念ながらその構成が功を奏しているとは言いがたい。

黒澤明監督の「羅生門」(およびその原作であるところの芥川龍之介の小説「藪の中」)を引き合いに出す声が多く聞かれるが、そのような歴史的傑作には遠く及ばない異質の趣の作品。

構成だけは真似てみても、微妙な差はあるものの似たような胸っ糞悪いエピソードをしつこく3回も観せられるのはただただ辛くて、「羅生門」のような意外性や映画的なワクワクは感じられなかった。

その根底には、人間に向けられたあまりに冷淡な眼差しがあるのではと感じられた。
老境に差し掛かったリドリー・スコット監督が辿り着いたニヒリズムとでも呼ぶべき境地には共感出来なくもない。だけど、一方では人類に対する愛もやはり映画には必要であろう。

ただ、最後の決闘シーンには監督の本領が発揮されていて素晴らしい見所となっている。

この事件の真実はともかく、大衆が最もおぞましい怪物であることは今も昔も変わらない真実であり、その辺りは巧く描かれていて面白いと思った。



二人にとっての映画業界の大恩人であるハーヴェイ・ワインスタインがセクハラ・強姦事件でハリウッドから追放された後に、晴れてベン・アフレックとマット・デイモンが手掛けたMe Tooムーブメントに対する贖罪映画である背景を鑑みると、後味の悪さがいや増す。
もっと幸福な動機で映画を創って欲しい。
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