歯医者のお姉さん

最後の決闘裁判の歯医者のお姉さんのレビュー・感想・評価

最後の決闘裁判(2021年製作の映画)
3.9
過去録。広告ではあまり興味がなかったが周りが大絶賛するのでとうとう重い腰を上げ映画館へ。本当、これは観て良かった。

起きた事よりも起きる過程に重きが置かれていて、キャラクターの背景の描写がほんと丁寧。マルグリットが受けた仕打ちを考えると本当に心が張り裂けそうだけれど、カルージュもル・グリも、完全なる悪ではないという点。それぞれの生い立ちや時代環境により思考回路や行動パターンは固定され、その決まったものさしでしか計れない。個性と言えば響きはいいが、自分主体、思い込みの恐ろしさ。実際にマルグリットの視点を観るまで私も気が付かなくて。そんな奥深いキャラクター設定をしておいて配役も最高なんだから、そりゃあこんな素晴らしい作品が出来上がってしまう訳ですよね。没入感半端ないっす。そしてやっぱり決闘裁判のシーン、尋常じゃない緊迫感。

誰が悪い悪くないという視点で見始めたけれど、最終的にこの作品で感じた事は、時代の残酷さ。辱めの被害を受けたのは妻なのに、加害者の罪状が『夫である男の所有物を損害した』となったのには驚いた。人間の扱いとは思えないような男尊女卑の境遇の中、女性からまでも冷たく当たられ、それでも良き妻として振る舞う姿は誰よりも強く美しく、裁判で震えるマルグリットに涙が出た。誰が考え出したのか分からないけど、こういうありえないような前例があり、それに抗い戦った人間がいて今の社会が出来上がっていることを考えると頭が上がらない。相手の立場になること。私は本当にちゃんと出来ているだろうか。