YohTabata田幡庸

最後の決闘裁判のYohTabata田幡庸のレビュー・感想・評価

最後の決闘裁判(2021年製作の映画)
4.2
「エイリアン」に続き本作と、偶々リドリー・スコット卿マラソンになっている。両者がDisney +でのみの配信なのだから仕方がないが。

ジョディー・コマーはNTLの「Prima Facie」で初めてちゃんと観て、芝居が本当に上手い人だとは知っていたが、ここまで美人だとは認識していなかった。時系列の最初の登場シーンで思わず「可愛い」と言ってしまったくらい。それと同時に強い女性像も出して行く姿はキャリー・マリガンともかぶる。「キリング・イヴ」をはじめとする役選びも良い。

若い頃にチャラかったのが、歳を重ねてもそのままみたいなベン・アフレック演じるピエール伯の一見して分かる嫌な印象を第一章「ジャンの真実」で受けるのだが、第二章「ジャックの真実」での「金の靴?サンダル?」等、彼のキャラクターが想像通りで苦笑してしまった。それ所か、ラテン語が読める等、ある程度インテリなのが鼻に付く。

ジャックがピエールと行う、有害な男性性の塊の様なゲーム「女の子を捕まえて、捕まったら乱交」。「ストレイト・アウタ・コンプトン」をはじめ、昔のギャングを想起する。それが後に更に嫌な、最悪なカタチで繰り返される。

必要以上に被害妄想を膨らませる実直な隠キャと、友情を大事にする世渡りが得意な陽キャ。
隠キャは陽キャの悪友の行いとは知らずに陽キャに対する恨みを募らせる。そのお陰で公然で辱められる陽キャ。その頂点に達する出来事の後、家に帰って来て事の顛末を妻に告げ「言ってないわよね?…ジャン」のマルグリットの台詞で笑ってしまった。

そしてひとりで勝手に勘違いをして激情に溺れた陽キャ。
妻が強姦されたと知っても、自身のプライドの事に執着する隠キャな夫。
そして公な場での最悪なセカンド・レイプ。

途中まで、ジャンは性格に難があれど悪い奴ではないと思っていた。ジャックもレイプシーンまではある程度は同情しながら観ていた。勿論ピエールとの男根主義な遊び方には何の感情移入も出来なかったが。
然し、マルグリットの視点に立った時、男がどいつもこいつも、子供、名誉、金、メンツの事ばかり気にしていて、ガサツで、頭が悪い様に見えて来る。

小姑だが、後にレイプされた経験がある事を語る義母。自ら歯車となったのだ。友人はじめ、他の女性陣も正しくなさを意識しつつも歯車でいる事を選んでいる様に描かれる。それはジャックの取り巻きの彼にも言える気がするし、もっと言えば時系列中盤までのジャックにも言える事だろう。そしてピエールも歯車なりにやりたい放題と言うだけなのかも知れない。

「権利などない。あるのは男の権力と見栄」と言う序盤の母親の台詞は宇多丸師匠の言う「一度動き出したら止められない機械的なシステム。登場人物たちは止めようとして踠くが、システムが動き出すきっかけは遥か手前にあって、最初から詰んでいた」と言うリドリー・スコットのテーマは、当時の封建制度や男根主義、ミソジニー等としてこの映画でもしっかりと出ている。

再会した時にジャンとジャックの言っている事が逆だった?

シャルル6世の若くナヨナヨ、ヘラヘラした狂気が癖になって頭から離れない。

決闘シーンや合戦シーンも去る事ながら、レイプシーンの音響の何と暴力的な事よ。

編集も含めてテンポが早い。そして黒澤明「羅生門」のモチーフをそのままに同じ形式で話を紡ぎ出す。このテーマを、嫌な部分を嫌な風に描きだし、エンタメに昇華したリドリー・スコット卿老体のアップデート、エナジーには勇気を貰うし、只々驚く。

最もレイプシーンを見せるか見せないかの議論がある事も念頭に置いておく必要がある。
YohTabata田幡庸

YohTabata田幡庸