ぶみ

カード・カウンターのぶみのレビュー・感想・評価

カード・カウンター(2021年製作の映画)
3.0
贖罪と復讐。

ポール・シュレイダー監督、脚本、オスカー・アイザック主演によるアメリカ、イギリス、中国、スウェーデン製作のドラマ。
米国軍刑務所から出所し、ギャンブラーとなった元上等兵の主人公が、ポーカーの世界大会への参加を促される姿を描く。
主人公となる元軍人ウィリアム・テルをアイザック、彼の元上司ジョン・ゴードをウィレム・デフォー、テルと行動をともにすることとなる青年カークをタイ・シェリダン、ギャンブルブローカーであるラ・リンダをティファニー・ハディッシュが演じており、主要な登場人物はこの四人。
物語は、各地のカジノを点々として生計を立てるテルが、ブローカーであるリンダと出会う様子が序盤で描かれ、なおかつ、カードゲームでの勝率を上げる独学で学んだ裏技「カード・カウンティング」の説明もなされたため、テルがその技術を駆使し、紆余曲折がありながらも世界一の座にのし上がっていく展開となるかと思いきや、シュレイダー監督が脚本を手掛け、本作品での製作総指揮にクレジットされているマーティン・スコセッシがメガホンをとった70年代の名作『タクシードライバー』コンビが、そんなエンタメ感満載の作品を撮るはずがなく、謎めいたテルと、過去にあった出来事の復讐を目論むカークの心中を淡々と描く作風となっている。
そのため、時折カジノにおけるカードゲームのシーンがあり、カード・カウンティングも披露されるものの、そこは本作品の主眼ではなく、あくまでも設定の一つとなっており、自身が過ごすモーテルの家具等に白いシーツを巻きつけたり、大勝ちはせずに目立つことなくカジノを転々としていく謎に満ちた主人公テルをアイザックが好演しており、日常の光景ですら緊張感に満ちた映像に仕上がっている。
特に、テルが軍人だった当時、実在するアブグレイブ刑務所での特殊作戦を回想するシーンが、VRカメラのような映像で描かれるのだが、長回しによる其処彼処で目を覆いたくなるような光景が広がっており、端的にテルの人となりを示すには十分かつ強烈なもの。
クルマ好きの視点からすると、前述のように、大勝ちすることなく各地を転々とするテルがステアリングを握るのが、かつては日本でも販売されていたことがあるフォード・モンデオの北米仕様フュージョンという派手さを抑えたDセグメントのクルマであるのも、彼らしさを如実に表しているなと感じた次第。
カードでのヒリヒリするような心理戦があるわけではなく、はたまた直接的な描写も極力避けた演出となっていることから、派手さは皆無ではあるものの、ひょんなことから因縁の相手と再会したことにより人生が動き出した主人公の行く末を、タクシードライバーコンビらしい緊張感漲る映像で描き出しているとともに、登場シーンは決して多くないものの、民間人を装いつつも元軍人感が滲み出る役どころには、やはりデフォーがうってつけだなと思う一作。

悪いのはリンゴしゃなく、入ってた樽だ。
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