にひみ

クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲のにひみのネタバレレビュー・内容・結末

4.4

このレビューはネタバレを含みます

だいぶ昔に観たことはあるが、言わずもがな本作は大人向け。小学生だった私には到底理解できない部分があったため、大人になった今、改めて鑑賞。
子供の頃と、大人になってから。この2つの経験を組み合わせることで本作の深みに辿り着けるような気がする。
少なくとも私の小さな脳みそでは、どちらか一方ではダメなのだ。

まず子供の頃の視点から。めちゃくちゃ怖い。
とんでもなく怖かった覚えがある。クレヨンしんちゃんの映画と言えば、トラウマになるような怖いシーンが数多くあり有名だ。中でも本作は私の中でトップクラス。感情がなくなりロボットと化す大人たちが理解できず、気づけばトラウマになっていた。怖いというより不快感、と言った表現の方が近いかもしれない。
大人がいなくなり、子供だけで生活をしたり、ショッピングモールで寝泊まりするシーンはワクワクした。ギャグも面白く、かすかべ防衛隊の冒険は観ていて非常に面白い。
しかし、全体的に観たら「むちゃくちゃ怖い!」「大人意味わかんねー!」という印象が強すぎる。

大人になった現在。なんて素晴らしい映画なんだ。
どれをとっても抜かりない。本作が新規のアニメ映画だったらどうだろうか。ここまで有名な作品にはなれなかっただろう。我々の中で強く根付いている家族の形、クレヨンしんちゃん、野原一家だからこそできた業だと感じる。
そう言った点でも抜かりない。

アニメーションの部分を見ても凄すぎる。始めのリアルすぎるエスカレーターから、太陽の塔の質感。ノスタルジーを感じさせる圧倒的な雰囲気。キャラクター全員大胆に繊細に、元気いっぱいに動きまくる。映像だけで見ても評価はかなり高い。

ラスト、しんちゃんの爆走シーンが本当に熱い。普段ちゃらんぽらんで、何も考えていないような5歳児。
しかし、誰よりも家族が好きで、家族と過ごす日々を愛しているしんちゃん。声優の演技力もあり息を呑んだ。

ふと、成人式を思い出した。
顔を合わせるだけで楽しかった、学生時代に起きた事件を何度も笑いながら話した。一生このままが良いと思った。幸せすぎた。
同級生と小学校に移動し思い出に浸っていた。
遊んでいたのが信じられないほど、小さすぎる鉄棒。
本当に座れるのかと疑いたくなる狭い椅子。
今となっては余裕で手がつく低い天井。
そうなのだ、誰も帰ろうとしない。全員口にはしないが、帰りたくないのだ。もう戻れないという現実を直視しようとしない。

本作でも大人全員が帰れなくなるわけだが、ふと疑問が1つ。果たして家族を捨ててまで懐かしさに浸ろうとするものなのだろうか。
私には子供がいない、まだ働いていない。責任というものの重圧をまだ知らない。
対して本作で描かれる大人たちは子供がいる。仕事がある。責任がある。一生かけて守らなければならないものがある。
逃げたくなる気持ち、帰りたくなる気持ちがわかるような気がする。誰も口にしない家族の闇の部分、触れてはならない部分をクレヨンしんちゃんで、子供向けアニメの範疇を越えないように、いや半分超えているだろう。そのギリギリを攻める点も芸術性が高いと感じる。

本作で全員が口を揃えて、喰らったシーンといえば、ヒロシの回想シーンだろう。
懐かしい匂いをヒロシの足の臭いで掻き消すという展開だった。
子供の頃に観た時は、ヒロシの足の臭いをギャグにしている、というだけの感想だったが今となってはもう少し先が見えてきた。
ヒロシの足の臭い、つまりは汗の蒸れた臭いは、仕事で頑張った証、守るべきものを守る覚悟、戦い続けた漢の臭いである。
もうギャグではない。これからヒロシの足臭ギャグで笑えなくなってしまった。
ただただかっこよすぎる。

子供から見たらギャグ、大人から見たら感動。どちらの視聴者層も楽しませる偉業を本作はやってのけた。
子供ができたら、仕事で辛い時にもう一度本作を観てみよう。また、今とは違った視点から観れそうで楽しみだ。
そして、まずは父と母に感謝と尊敬を。言葉で言うのは気恥ずかしいため、少しずつ態度で示そうと思う。
にひみ

にひみ