よどるふ

ウエスト・エンド殺人事件のよどるふのレビュー・感想・評価

ウエスト・エンド殺人事件(2022年製作の映画)
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ところどころにミステリの“型”への意識的な言及があるのだけれど、本作の舞台となっている1950年代においても、この「“型”に意識的である」ことに関しては、すでにある程度の歴史があったはず。本作は、そんな「“型”への意識」を備えた“時代劇”になっている。

作中のアガサ・クリスティー原作の舞台『ねずみとり』は、もともとクリスティー自身が脚本を描いたラジオドラマで、それがのちに小説化、戯曲化されていき、ロンドンの劇場にてロングランを記録する舞台『ねずみとり』となっていく。そんな史実を基にしたフィクションなのだ。

本作は舞台『ねずみとり』をストレートに翻案した映画ではないが、本作には、ラジオドラマ→小説→舞台→映画とアダプテーションされてきた『ねずみとり』を扱うにふさわしい犯人の動機が用意されている。容疑者たち全員を怪しく描く基本もしっかりしていて、愉快な印象の一作。

その“愉快さ”の大部分を担っているのが、シアーシャ・ローナン演じる新人巡査。事件に関することをなんでもメモする性格は、潜ませておいた手がかりを観客の前に再提示する必要があるミステリ映画の登場人物としてうってつけの存在なのである。
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