KunihiroMiki

スワンソングのKunihiroMikiのレビュー・感想・評価

スワンソング(2021年製作の映画)
4.5
監督のトッドスティーブンスの地元オハイオ州サンダスキーに実在したカリスマ的なヘアメイクドレッサーをモチーフに、オープンリーゲイとして生きることが今よりも遥かに生き辛かった時代をサバイブした人々のしなやかさや逞しさを描きつつ、そうしたコミュニティが良くも悪くもお役御免となった時代の変遷や、ゲイ男性とシスヘテロ女性との友情というLGBTQ映画ではほとんど扱われてこなかったテーマやストーリーを敢えて描く。
パンフレットでよしひろまさみち氏が書いていたように、共感への配慮が他ジャンルよりも厚いがゆえに「若くて」「セクシュアリティに苦悩していて」「恋と愛のはざま」ばかりを描きがちなLGBTQ映画の中で、ここまで自然体に老境の人の生き様を映し出したのはそれだけで意義のあることなのかもしれない。

かといって説教臭かったりパフォーマティブな雰囲気でもなく、安直に言うと「ストレイトストーリー」と「トランスアメリカ」を掛け合わせたような、終始ポジティブなかんじ。

細かな演出も良くて、結構名シーンの連続。センシティブになりすぎず、映画らしい大胆でファンタジックな展開をお茶の間感のある感じで盛り込む手腕はすごい。シニアカーで公道を走って渋滞させるところとか、まじで泣けました。

とにかく主人公パットを演じるウドキアーが最高すぎて、ポスター欲しい。
「あたしは時代遅れのゲイかもしれない、けど自分らしく、堂々と生きる気概やヴァイヴに古いも新しいもないわ」といわんばかりのパットの力のある眼差しに、シスヘテロ男性の自分は往復ビンタを食らって奮い立たされたのでした。超最高です。ありがとう。
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