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シチリア!シチリア!のyukkiのネタバレレビュー・内容・結末

シチリア!シチリア!(2009年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

主人公は共産党員。政治が田舎の大衆を動員する様が描かれている。イタリア語とシチリア語の差異、その他のシチリアの政治問題に詳しければ更に文脈を踏まえて見れたと思う。

時折出てくる非現実的なシーンの数々が、叙事詩的な作品の中に若干の緊張感を差し込んでいる。蛇は共産主義の暗い運命を暗示しているのだろうか。シチリアの叙事詩であると共に、この映画は共産主義に人生を賭け、敗北していく男の物語である。三つの岩に石を当てたら宝物が出てくるという伝説。しかし物語の終盤、選挙に落選した主人公の前に実際に出てきたのは、ロシア帰りや民衆暴動の時に自分を苦しめた蛇の幻覚だった。

時系列を追って壮大な物語を作りあげる映画だが、最後の十分間はその方法論の解説のような印象を受けた。息子を見送る主人公は白昼夢の中で息子を必死に追いかける。すると、子供の頃の自分があの時の教室の中で目覚める。全ては夢だったのか?しかし学校を出るとそこは現代のシチリア。取り壊される自分の家の中で、なくなったままになっていた妹のイヤリングを見つける。大人たちに追いかけられて全力で走って逃げる子供の主人公...すると、もう一人の、疾走する子供の頃の自分とすれ違う。彼はそのまま現代のシチリアを走り去り、過去へと戻っていく。

取り壊される家を見ながらの、少年のセリフ。「夢を見たのは、今か、昔か?」過去は現在へと、現在は過去へと走り去る。過去の純粋な回想などありえない。現在へと走ってくる過去と、過去へと走ってゆく現在がすれ違う、そんな特異な時空間の中にトルナトーレの作品はある。そして、そこでたった一つのイアリングが見つかれば良いのだ。独楽の中に押し込められた蝿は、生きている。
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