Kaie

笑いのカイブツのKaieのレビュー・感想・評価

笑いのカイブツ(2023年製作の映画)
4.0
*レビューというか感想文

こんなに心を揺さぶられたのに、ここまで憧れとかそういった感情を抱かなかったのは初めてだ。

それはおそらく、ツチヤタカユキという人間が、少なくとも自分にとっては、天才ではなく狂人だったからだろう。
上手く言えないが、自分(または自分にとっての一般)が四角だとしたら、天才は凸、狂人は凹な気がする。どちらも自分とは違うという点では共通してるが、天才の輪郭には自分が収まる余地があってそれを「共感」と呼ぶこともできるし、余った部分を「憧れ」なんて呼ぶこともできる。ただ狂人の輪郭には収まることすらできない。自分を投影することができない。そこに「共感」はないしましてや「憧れ」なんて存在するはずもない。だからツチヤのように全てを捧げるものを見つけたい、ツチヤのように好きなものに全てを捧げよう、そのためなら自分をとことん追い詰めることも厭わない、それができないなら死んだ方がマシだ、そういった究極的な感性に感化されることはなかった。

いや、正しく言えばまったく感化されなかった訳ではない。自分の好きを突き詰めていく姿勢を大切にしていきたいとか、周囲の目を気にせず自分の感性を信じたいとかそういった前向きな精神性は間違いなく後押しされた。そう言った意味では感化されているのだが、しかし彼のそれはそういったものとはもはや別次元のもので全くの別物であるはずだ。誰かの姿勢から学ぶとかではなくて、元来自身に備わっていたもので、スケールが違う。だから僕にはそのマインドを今から獲得するのは不可能だし、せいぜいできることと言えば、僕には受け止めきれない彼の狂気を薄めて熱意にしたものを拝借してエネルギーにするくらいが精一杯なのだ。

ただそれでいいと思うし、それで充分だと思う。全てを背負った先にある生きづらさが僕にとっては何よりも恐ろしいことだから。
自分は氏家のような人間が多数派の社会に、ツチヤが受け入れられなかった、怒った社会に特に苦労もなく溶け込める側の人間なのだ。

それでも、心を大きく揺さぶるのは往々にして自分とは違う何者かが起こすエネルギーであって、この映画は自分にとってそういったものだったのだろう。

オードリーのannでこの映画について触れられるかは微妙なところな気もするが、触れられるのであれば楽しみに待ちたい。
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