金魚鉢

笑いのカイブツの金魚鉢のレビュー・感想・評価

笑いのカイブツ(2023年製作の映画)
4.4
一度も笑えない作品だった。

物語としての起伏よりもツチヤタカユキの不器用過ぎる生き様を見る映画。噂通り岡山天音の憑依された演技が凄い。まごうことなき社会不適合者な目つきと喋り出し、所作一つ一つの危なっかしさが徹底されていた。

目指したいものが明確で才能もあるのにその世界に適応できない苦しみと葛藤、社会性の欠落によって才能が潰れる残酷さ。レジェンドの称号を獲得したこと、全てを捨てでもやりたいことがあること、周りの人に恵まれてきたこと、本来ポジティブに捉えられる要素すべてが夢を諦める邪魔をする。面白いと評価されている=世間と大きくはズレていない価値観を持ち合わせてしまっている=馴染めない自覚があるのにどうしようもないところにもとてつもない絶望があった。

また"過度なストイックさ、余計なプライドによって身を滅ぼす"お笑いの世界特有の精神的な追い詰められ方が描かれており、人を笑わせることを追及する上での加減がいかに繊細で、才能を信じて続けることが難しいかを痛感させられた。すべてを捧げている分後には引けないことが伝わってくるピンクの「地獄で生きろや」と西寺の「お前この世界でしか生きてけねえぞ多分」の台詞が印象深い。

社会性の必要ない世界で承認欲求を満たすことを覚え、感性に自信をつけてしまったツチヤが進んだ道の先でギャップにもがく様が、何者かになりたかった者の目に痛々しく映る怪作でした。
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