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笑いのカイブツのプライのレビュー・感想・評価

笑いのカイブツ(2023年製作の映画)
4.3
人生の1分1秒を他人を笑わせることだけ考え、お笑いに魂を売った作家ツチヤタカユキさんの半生を映画化した狂気的なドラマ。

狂気がもたらす成果。狂気がもたらす社交性の欠落と理解者の存在。狂気の沙汰が生む結果と代償を描いた怪作を思わせて、尖った者と尖った者を取り巻く人間関係の普遍性を提示した秀作。そして何よりも、主人公ツチヤ役の岡山天音さんが狂気の燻りと発火で空気の張りをコントロールする狂演を見せつける。

本作で描かれるのは、人間関係を捨て、笑いに全振りして得られた成果と信頼。加えて、その代償として失われた、社交性を会得する機会。時間の使い方や努力値の振り方によって、常人を凌駕する技能や創造性を得られるが、引き換えに、誰もが人生で積み上げてきた常識や一般的教養を得られず、尖った人間または天才や奇才へと育つ。そんな者たちは少数派であり、一般的な時間の使い方や努力値の振り方をした凡人から存在を弾かれる。北野唯我さんの著書『天才を殺す凡人』でもある通り、どれだけ共感できるかを感情の主体とする凡人にとって、常識を得ずに創造性を主体とする主人公ツチヤを弾くのは当然の原理である。だが同時に、ツチヤの創造性に共感を示して受け入れる者もおり、尖った者は決して孤独でないことを示している。本作のツチヤ以外の登場人物は、ツチヤを弾く者たち、ツチヤを受け入れる者たちといった2つに分けられる。ツチヤの創造性に共感するか共感しないかで構図を作り、尖った才能を持つ者を取り巻く人間関係の普遍性を提示した作品である。加えて、ツチヤに似た境遇を持つ者に「辛い思いをしてるのは君じゃないよ」や「少ない人数だけど、理解者が出てくるよ」と救済になっている。例え、本作が多くの方々から共感を得られずとも、十分な役割を果たす。

ツチヤを演じる岡山天音さんの狂演が素晴らしい。『セッション』のマイルズ・テラーや『BLUE』の松山ケンイチさんに続く、結果を欲して時間を大量投下していく狂気が迸る。かといって常に狂気を帯びたり発したりするのではなく、平凡に流れゆく風景の中で狂気が燻っては発火するという静かな強弱で表現している。他人とコミュケーションが取れない役柄であり、他人との会話中(上手く言葉を発せなくて、もはや会話らしきもの)では狂気が引っ込んでいるが、沸点に達するとピキピキッと燻りを見せてはピシャッと発火して空気の張りを変え、観る者は岡山さんに引き込まれる。

風景と不釣り合いな劇伴がマッチ。平凡な風景の中、ツチヤの脳内で放出されるアドレナリンやグチャグチャした感情を感じ取れる。


⭐評価
脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐
演出・映像   :⭐⭐⭐
登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐⭐
設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐⭐
星の総数    :計17個
プライ

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