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パリ、テキサス 2K レストア版のWILDatHEARTのレビュー・感想・評価

4.5
『「スター・ウォーズ」と「パリ、テキサス」』


8ミリフィルムの中の若く美しいジェーンを観たハンターは言う。

「あれは遠い昔、遥か銀河系の彼方でのこと・・・」

ハンターが眠るベッドのシーツの柄は「スター・ウォーズ」のデザインでまとめられ、枕カバーには「ジェダイの帰還」のタイトルロゴが見える。



実の親から捨てられ、育ての親である叔父・叔母夫婦と共に暮らすハンターの生い立ちは「スター・ウォーズ」におけるルーク・スカイウォーカーの境遇を思わせる。ハンターが投影された8ミリフィルムに映るジェーンを観るエピソードはルークがホログラムのレイア姫の姿を観たシーンと重なって見えなくもないし、家族を捨てた実の父親トラヴィス(=ダース・ベイダー)の存在は、ハンターが世界(宇宙)へと旅に出る大きなきっかけを与えていると言えそうだ。

その旅の目的は、自分とは血縁関係にあるお姫様・ジェーン(=プリンセス・レイア)を救い出すこと!

...と、そんな風に勝手な妄想を巡らせることで、映画「パリ、テキサス」は、サム・シェパード(脚本)と監督ヴィム・ヴェンダースによって「スター・ウォーズ」(第2サーガ:1977〜1983)へと捧げられたオマージュだったのではないだろうか?なんて思ったりする。



トラヴィスが行く先々で不穏なトラブルを巻き起こすのは、やっぱりフォースの暗黒面を体現するキャラクターとしての設定がそうさせているんじゃないのかな。

この男が現れたことで弟のウォルトは短気で不機嫌になるわ、その妻アンは「トラヴィスが来てから何もかもが急に変わってしまった。何だか怖い」と精神を病んでしまうわ、ホントにろくなことがない。

高架上を歩いている時には物騒な演説をぶち上げるアジテーターに出くわしたりもする。

有名なマジックミラー越しの対話においてもガラス一枚を隔てた光と陰の対比によってトラヴィスが抱える心の闇が視覚的により一層明確に印象付けられる。

ジェーンとトラヴィスがミラーを挟んで向かい合うとき、ジェーンのヘアスタイルの中にトラヴィスの顔がはっきりと写り込んでゾッとしてしまう。
トラヴィスが見ていたのは自分が対峙すべきジェーンではない。あたかも彼の眼には相手に投影された自分の姿しか見えていないかのようだ。
目の前に愛すべき者が居るというのに。

こうしたエピソードによって説明されるトラヴィスのダークサイドが、かつて自ら築いた家族を崩壊へと追い詰め離散させてしまうのに十分過ぎるほど深いものだったことは想像に難くない。この業の深さはやっぱりアナキン・スカイウォーカーがモデルなのかな?なんて。



この映画の画面の色彩設計はエドワード・ホッパーの絵画を彷彿とさせてとっても印象的なんだけど、そう言えば、画面の中に頻繁に忍び込んでくる赤はトラヴィスがもたらす不吉のシグナルとして提示されているようにも見える。
(トラヴィスが去った後ハンターとジェーンが再会を果たすシーンではこの赤が影を潜めて、二人ともに深いグリーンの服を纏っていることで画面にホッとするような平穏がもたらされる。)



最後に一つだけ善い行いをして、再び家族の前から姿を消し孤独な人生へと戻っていってしまうトラヴィス。

彼の心に巣食う闇はどこまでも深く、ハイウェイに落ちてゆくテキサスの赤い夕日だけがその暗黒を癒してくれているかのようだ。

それは、かつてルーク・スカイウォーカーが青春の孤独の中で見つめていた惑星タトゥイーンの二つの夕日のように、哀愁を伴って今もなお僕達の胸を熱く焦がしてくれる。



あの時代、「スター・ウォーズ」というアメリカの新しい神話の様式を踏襲することで、もう一つの心に残る旅の物語が産み出されていた・・・と妄想を膨らませてこの作品を観てみるのも、面白い映画体験ではあった。
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