けご

アステロイド・シティのけごのレビュー・感想・評価

アステロイド・シティ(2023年製作の映画)
5.0

 ウェスの作品は悲しみを抱えた登場人物たちが拡大家族を構成する可能性を示して終わることが多く、大人になりきれない大人と、大人より大人な子供が出てくるので、大好きな監督のうちの1人だ。彼は相当なシネフィルで、特にゴダールからの影響はかなり強くて、今作はそれが1番大きかったと思う。
 綺麗で可愛い画面に表情を消した俳優がある種マペットのように出てくるのは、カウリスマキと同じで、こちら側に想像の余地を与え、演技以上の本当の感情を見せるためだと思う。今作では特に入れ子構造にして、「これは物語なんですよ、だからこそ本当のことなんですよ」と示しているように思った。
だからYou cannot wake up,if you don’t fall asleepのシーンは本当に心が揺さぶられた。
 評論家の柳下毅一郎サンが、本作のスカーレット・ヨハンソンはマリリンモンローで、彼女が、演技をしている俳優の役をしていることと、目に傷のメイクをしているけど、その傷は本質的に本物であることが対応していると評していて、彼の言う通りこの構造にすることによってかなり深い感情まで掘り下げることに成功していると思った。
 実は少しずつビジュアルも作品ごとに進化しているウェス・アンダーソンだけれど今回はアステロイド・シティの光の美しさや、夏のワクワク感が映像として強烈に伝わってきたと思う。実は核の恐怖と、これから終わりなんじゃないかという、実存的恐怖が背景にあり、それをメタファーや客観的把握そして愛や親切心によって変えようというメッセージが根底にあり、そのアティチュードが素晴らしいと思った。


 
けご

けご