幽斎

呪術召喚/カンディシャの幽斎のレビュー・感想・評価

呪術召喚/カンディシャ(2020年製作の映画)
3.6
世界最古にして最大のファンタスティック映画の祭典「シッチェス映画祭」。1968年に創設された頃はアンダー・グラウンドな作品が多かったが、監督のソノ後の躍進振りから最大のマーケットのハリウッドも無視できない。町興し的な感覚で始められたが風光明媚なスペインのバルセロナに有るリゾート地。シッチェス映画祭ファンタスティック・セレクション2021。アップリンク京都で鑑賞。

ジャケ写が邦画「呪術廻戦」便乗商法が情けないが、強ち間違いでも無い。モロッコの大半はフランスが占領し保護区に。有名なカサブランカ会議では、Winston ChurchillとFranklin D. Rooseveltの会談を実現する等、アラブ諸国との緩衝として、独自のスタンスを築く。立憲君主制で日本の皇室とも関わりが深く、国としては小国だが外交的な利用価値は高い。フランス映画でモロッコが良く出てくるのは歴史的な謂れに在る。

フランスのホラーと言えば「ハイテンション」Alexandre Aja監督。「マーターズ」Pascal Rogé監督。「フロンティア」Xavier Gens監督。そして「屋敷女」Julien MauryとAlexandre Bustillo監督コンビがBIG-4。本作は屋敷女の監督作品だが、前作が日本公開時に残酷描写を削除した事で、逆に注目を浴びた経緯も有り、過大評価の誹りは拭えないが、ハリウッドで創られた「レザーフェイス 悪魔のいけにえ」中々のヴァイオレンスで、残虐系ホラーが好きな方の信頼度は高い。

「Aisha Kandisha」アイシャ・カンディシャ、モロッコ北部に登場する神話上のキャラクター。ラクダの足を持ったゴージャスな若い女性。見事な美しさで若い男性を誘惑、彼らを狂気に駆り立て殺すと言われる。現代でもヒッチハイカーの振りをして、犠牲者としての生贄を待つ。多くのトラック運転手が、北部地域で遭遇したと伝わる事が、都市伝説として今に生きる。彼女は水源に住み黒い衣服を着る。弱点は鋼のナイフを恐れる。

プロット的には「ブギーマン」+「キャンディマン」だが、同じ都市伝説でもハリウッドと違ってルールに拘らずエンタメとして説教臭く無い。逆に言えばモダン・ホラーとしての裏付けが弱く、ダイバーシティなフランスの貧困層の憂鬱を若い女性に置き換え、召喚されたカンディシャが、女をレイプする男を血祭りに挙げる。と言った社会派メッセージが脆弱、スリラーとして見るとキャンディマンの様な凄みも無い。

ホラーとしてはコレで良いのかもしれないが、スリラーとして見るとプロットは穴だらけ。最大のミスは主人公に具体的な危機が訪れない。元カレにストーカーされレイプされそうに。その勢いでカンディシャの召喚の儀を行い、元カレの訃報を知る。クソ野郎が死んでスッキリするかと思いきや、カンディシャは親友の恋人や兄弟まで無差別に惨殺を繰り返す。自分が被害に遭うのではなく、近しい人が殺される。ミステリー小説で言う「CIRCLE AROUND」。読者は居心地の悪さに苛まれるが、本作の場合は主人公は安全圏に居るので、間接的に殺人幇助として加害者に為る。問題なのは友人達が主人公を責めないので、レトリックに乏しくスカスカに見えてしまう。アカンのは〇サギちゃんを殺したら駄目やろ。最初の被害者の時点で結末は容易に推測できる。

カンディシャの設定も神話から大きく逸脱してる。神話では偽りの若さと美貌で男を誘惑して、セクシャリティーな呪術で人間を動物化させ発狂させて殺す。女性なら子供を産めない身体にする。しかし、本作は呪術的な存在と言うスタンスを自ら放棄して、力技で相手を貶める。私はアニメは一切見ないが「呪術廻戦」の様に、間接的に相手をコントロールするのが呪術の醍醐味。カンディシャの造形は男の私が見ても悪くないが(笑)、存在感が人間的過ぎて怖くない。肉体損壊とか物理攻撃のオンパレードの方が、ホラー好きの人にはウケが良いかも。

ミステリーのCIRCLE AROUNDは人物描写に緻密さが求められるが、友人達を無差別に殺すだけでなく、被害者側も杜撰なので説得力に欠ける点は、おフランスらしいカフェオレの甘さ。ハリウッドなら主人公に生き延びて欲しいと言う大前提が有り、被害者にも助かって欲しい。と思わせるブレイクポイントを作る事で、見る側も恐怖を追体験する。フレンチ・スプラッターを私がイマイチ評価しないのは、非の無い人が無残に殺されて逝くのをケラケラ笑って見る事が出来ないから。他人に関心が無いのがフランス人、利己主義とも違う個人主義がホラーでも垣間見える。ラストは後で追加されたエンディングらしいが、日本ではソレを蛇足と言う。

団地の異文化と移住者の警戒心をカンディシャが体現する、格闘系フレンチ・ホラー。
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