たく

死刑にいたる病のたくのレビュー・感想・評価

死刑にいたる病(2022年製作の映画)
3.8
白石和彌監督の最新作で、連続殺人犯が主張する冤罪の真相を追っていくサスペンス。阿部サダヲのサイコパスっぷりがとにかく抜群で、過去作含めて一番ゾッとする怖さだった。あのいかにも善人の顔をして何を考えてるか分からない感じを彼以上に出来る人はいないね。拷問シーンも怖くて、グロテスクさに思わず目を逸らした。題名はエヴァですっかり有名になったキュルケゴールの言葉に由来してて、序盤の大学のシーンでちゃんとキュルケゴールの講義を入れてたね。

連続殺人犯の榛村に昔可愛がられた筧井が本人からの手紙で面会に呼ばれて、犯人とされてる24人の殺人のうち一人だけ冤罪だと告白される展開。ここから筧井が真相をたった一人で探っていくんだけど、ミスリードに次ぐミスリードで何が本当なのか混乱してくる。まるで筧井が榛村に心を操られてるように見えてきて、観てる側まで榛村に操られてるような錯覚に陥る。ラストでやっと解放されたってところからの、もうひと仕掛けがゾッとした。

中盤で筧井が驚愕の事実(?)を知り、それに自己の行動が引っ張られていくのが怖くて、彼が榛村のマインドコントロールから逃れようとする濃密な二人の世界の話になってた。特に面会室のガラス越しに二人が手を握り合うシーンの見せ方が上手い。ガラスに写る二人の顔が重なる演出は「三度目の殺人」にも出てきたね。

真相解明に没頭する筧井と対比される浮かれた大学生がクソばっかりで、Fラン大学生であることが卑屈っぽく描かれてた。自分がバブル時代末期に大学行ってた時も学生独特のあの軽薄なノリが大嫌いだった。
本作は阿部サダヲの演技が突出してるけど、岡田健史のイケメンを抑えた感じが良かった。中山美穂の優柔不断な母親も上手くて、彼女も榛村にコントロールされてた一人なんだね。彼女の「自分じゃ決められない」ってセリフを金山も言うのが印象的。
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