こまひと

軍艦少年のこまひとのレビュー・感想・評価

軍艦少年(2021年製作の映画)
3.9
まず、圧倒的すぎる軍艦島の画力。
その場所の持つ力とかオーラが、
映像からヒシヒシと伝わってきた。
その場所が生きていた証とその名残、
そしてどこか切なさと虚しさもあって、
胸が少しずつ熱くなった。

海外の映画で、
想像を絶する景色の映像を
観た時の感覚に少し似ていた気がする。
それと同時に、
この映画が海外の人にも届いて欲しい。
とも思った。
もちろん軍艦島だけでなく、
長崎というロケーションの、
柔らかくて美しい雰囲気の中で
描かれる物語も良かった。

ポスターにも書いてあるけど、
紛れもなく"喪失と再生"の物語だった。
"喪失"の部分は、
静かに淡々と進んでいくけど、
それが絶妙にリアルで苦しくなる。
海星が母の絵を描くシーンでの、
二人の見えない絆と愛で包まれた
優しすぎる空気感にまず泣きかけた。
あのシーンだけで、
親子っていいなと思える瞬間。
母役の大塚寧々さんの
包み込まれるような柔らかさには、
全子供がやられてしまう。

"喪失"から"再生"に向けて、
進もうとする息子と、立ち止まる父。
本当の"強さ"ってなんなんだろう
そんなことを考えてしまう時間が流れた。
真っ直ぐだけど、
どこか繊細で脆さもある、
海星演じる寛太くんの瞳を通して、
伝わってくる心に、
胸の奥が自然と熱くなる。
予告にもある
玄海に殴りかかるシーンは、心が震えた。
あの感覚は中々出会えない。
寛太くんにやられた。

"逃げるなよ"って言葉が、
こんなに心にすんなり入ってきたのは、
この映画の持つ力だなあと思った。
映画ってどこかわざとらしいセリフだったりが、
あるのはもちろんしょうがなくて、
それも映画の良さの一つでもあるんだけど、
そのセリフらしいセリフさえも、
すんなりと心が受け入れて、
自然に感じれる時って、
すごく気持ちがいいし、不思議な感覚でもある。

強さも弱さも、
どんな感情も受け入れて、
前を向きたいと
自然と思わせてくれる映画だった。
いつか軍艦島行ってみたいなぁ…
この映画がずっと残って欲しいなぁ…
なんて帰り道に思った。

ぜひ劇場で圧巻の映像と
繊細でまっすぐな物語を観てほしい。
(感想が長くなりすぎたけど)
こまひと

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