山田森氏

ある男の山田森氏のレビュー・感想・評価

ある男(2022年製作の映画)
3.4
 文房具店での窪田正孝と安藤さくらとの出会いのシーン、雷が落ちて停電になり、ブレーカーが落ちて、窪田がブレーカーを入れると左頬の傷が映し出される一連は言葉ではない映像的な語り口として上手いと思った。また、窪田正孝が文房具店に現れる際に必ず雨が降り、安藤さくらとの関係性が進展するところで雨が上がる表現が素晴らしかった。
 柄本明をレクター博士に模したキャラクター設定が面白かったし、彼と妻夫木との面会シーンでの雨を使った演出も素晴らしかった。
 開発中の横浜の街の捉え方が良かった。この開発中の横浜の街を捉えたショットの前に過労で自殺した青年の裁判シーンがあるのだが、いみじくもオリンピックの無理な競技場建設工期のせいで自殺した建設責任者の青年の事を思い出した。

 ただ、中盤で窪田正孝の本当の正体は誰なのかというミステリーがメインになってくると、会話シーンが中心になり、最初に言ったような言葉ではない映像的な語り口が減っているのが少し残念だった。また、これといった盛り上がりみたいなシーンは無く、終始淡々としているので作品としてのダイナミズムや面白みにも大分欠けていた。これは原作によるところの問題かもしれない。

 エピローグでの妻夫木と真木よう子の外食シーン、真木よう子のスマホから彼女の不倫がばれる流れと不倫を知った妻夫木の何ともしれない苦虫を嚙み潰したような表情が素晴らしかった。また、ここでカメラが引いて妻夫木の後ろ姿を映すと水槽の窓枠が絵画の額縁のようになり、冒頭で映し出される絵画と酷似したショットになるのが上手いと思った。
山田森氏

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