名波ジャパン10

ある男の名波ジャパン10のレビュー・感想・評価

ある男(2022年製作の映画)
3.9
「マチネの終わりに」に続く平野啓一郎のベストセラー小説の映画化。「マチネの終わりに」はパリ、ニューヨークの街並みを丹念に描くことにより小説の映像化に成功していたが、人の内面の深部に視点が向かうこの作品の映像化は極めて難しかったはず。それを可能にしたのが、窪田正孝の演技。「ある男」の苦悩と優しさを見事に演じ分けている他、1人2役でその父親役を演じている一瞬のカットは鬼気迫るものがある。窪田正孝のおかげで原作はかなり忠実に映像化されていると思うが、何か肝心なピースが欠けている様な物足りなさが拭えない。妻夫木聡という存在感の強さ故、本来、語り部に徹すべき脇役にスポットライトが当たり過ぎ、エンディングも妻夫木聡が持っていってしまったことによるものだと思う。ラストこそ原作に忠実で良かったのではないだろうか。