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ある男のゆずのレビュー・感想・評価

ある男(2022年製作の映画)
4.0
『この話どこに行くんだ?』っていうギアの入り方をする作品が、自分は好き。今回は誰が主役って言うよりも、いろんな人物や出来事にいろんなところから光を当てて、それを多面体として見せていきたいっていうイメージが自分の中であって。原作のおもしろさは、ストーリーもさることながら、その背景に社会問題が描かれていること。

映画開始から主人公が登場するまでに時間がかかるので、ここから城戸の話になりますというファンファーレみたいなものが必要だと思っていた。また、それまでは宮崎の牧歌的な空気の中で物語が進んでいるので、ガラッと雰囲気を変えたかった。それは、城戸が置かれているアイデンティティの居心地の悪さみたいなものにもつながってくる。その辺はモノローグで処理したくはなかったので、飛行機の窓から差し込む眩しい光や、城戸の家の周囲の工事音など、城戸の周囲に意図的にノイズを増やして彼の状況を表そうとした。

妻夫木さんってすごく安定感があるのですが、違う分野の人をあてると自分の知らない妻夫木さんが出てくる。
城戸にとって一番リラックスできる関係性はどこかと考えた場合、仕事の同僚ではないかなと。

今まではポーランド人カメラマンの視点で映画を撮ってきて、良くも悪くも現実から浮いたような空気感になっているのがすごく好きでした。でも今回はちゃんと地に足の着いた土の匂いのする画を撮りたかった。宮崎では木の匂い、横浜では鉄のインダストリーな感じ、伊香保も独特の空気感

手を出したあとに手の跡がフワッと消える。ランニング中に倒れて、逆側の上から捉える。ビニール傘。窪田のおびえる目。夜道を自転車で走る。

『砂の器』『人間の証明』『飢餓海峡』
ルネ・マグリット「不許複製」 
『燃ゆる女の肖像』絵にフォーカスしていくショットで始まる
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