近本光司

ある男の近本光司のレビュー・感想・評価

ある男(2022年製作の映画)
3.5
典型的な中肉中背で、育ちの良さを感じる妻夫木聡の立ち姿。カメラは余白を残した構図で彼の後ろ姿を執拗に収め、この作品の基底となるサスペンスの演出にひと役を買っている。この在日三世の出自をもつ弁護士は、日々の折々で人びとの憎悪に触れる。義父が食卓で無邪気に披見する嫌韓発言。テレビが報道するヘイトスピーチ。面会室で囚人が真正面から打つける怨恨。この国に跋扈するレイシズムや差別意識を背景に描き込むことで、すべてを擲って過去を棄てる選択をした人びと、その「ある男」を追う「ある男」という構造の物語に説得力をもたせている(マルグリット《複製禁止》)。これらは平野啓一郎の原作に負うところも多いのだろうが、石川慶の演出が物語世界を輝かせているお手本のような原作もの。清野菜々が働くバーの店主とか(名前忘れた)、窪田正孝がバイトする居酒屋の同僚の河合優実とか、端役の采配もいい。安藤サクラの息子の男の子もじょうずだったな。力のある日本映画という感じ。『百花』なんかよりぜんぜんいい。