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ある男のjunのレビュー・感想・評価

ある男(2022年製作の映画)
3.9
里枝は離婚後、息子をつれて故郷に帰り文具屋を営んでいました。そこで客として来ていた大祐と出会いそのまま再婚。子供も産まれ家族4人で幸せな生活を送っていました。しかしある日大祐が仕事中、不慮の事故により突然死してしまいます。

葬儀で疎遠になっていた大祐の兄がやって来て遺影を前に手を合わせますがそこで兄から驚愕の事実が告げられます。

「これ、大祐じゃないですけど…」
「全然違う人ですよ」と。

里枝が愛した人はその日からX(エックス)さんと呼ばれるようになり真相を探るべく里枝は離婚調停でお世話になった弁護士の城戸に再び連絡をとる。



《以下ネタバレあり》






人間誰しも生まれ落ちるその場所を選ぶことはできないわけで、そこが自分の思い描く場所とは違う人だって必ずいると思うしそう考えるとXのした選択も分からなくはなかった。
ただ残された里枝や子供のことを思うと未亡人ではなくなりましたと言われてもじゃあ、私とあの人が過ごした時間はなんだったのか…とやるせなくなる。

身元ロンダリング…
刑務所で小見浦が300年生きた人間の話をする場面。まったく関係のない話かと思わせておいて実は城戸が求めている答えの核心を突く非常に重要な話だったという演出には脱帽でした。

残忍な事件を起こした死刑囚の息子として過酷に生き、意を決して戸籍交換。やっとの思いで手に入れた谷口大祐という幸せな人生。それを考えたら戸籍交換が完全な悪だとは思えなかった。
それしか逃げ道がなかったんだと思う。
人を殴るためではなく自分を痛めつける為にボクサーになったと語ったり、自殺未遂をしたり…とにかく自分という存在を消したくて上書きを繰り返す人生ってどんなに辛いだろう。

だけど最後は自らではなく事故で亡くなったというのが不謹慎ながらもまだ救いに感じた。

全ての真実を知った里枝や息子の悠人。
それでもXが好きなことに変わりはなく現実をなかなか受け止めきれない様子で涙を流す…胸が痛む場面でした。

自身も在日朝鮮人3世として生きづらい人生を送る城戸は映画の最後で名前を聞かれてなんと名乗ったのか…
とても気になるラストでした。
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