ぷりん

香川1区のぷりんのレビュー・感想・評価

香川1区(2021年製作の映画)
4.4
小川淳也という人間が主人公だった前作に対し、今作は「有権者」そのものが主人公であった。珍しく小川さんが感情をあらわにするシーンで、田崎さんが「メディアに当たっても、有権者には当たらないでくださいね」と言ったのも実はその伏線か。色んな意味で小川さんがあんなに怒りの感情を出すタイプだとは思わなかった。
大根の伏線も秀逸で面白かった。

妻です!娘です!タスキに対してボランティアの中から違和感の声が出て、改良されたのも小川さんを支えるスタッフの層が厚みを増した証左だろう。正直、夫です!父です!というタスキを使っている陣営もあるし、選挙は家族が支えるのが文化なのでこれまでずっと選挙に関わってきた人々にとっては当たり前のことなのだと思う。ただ、今回初めて選挙に関わったというボランティアにとっては、ジェンダー感的に気になる、古臭いと見えた。タスキの良し悪しは置いておいても、こうやって新陳代謝が生まれるのは組織として健全なのかもしれない。また4年以内に選挙があるわけだが、この香川1区で熱気が続くのか、はたまた変わるのか、平井陣営、町川陣営からの巻き返しはあるのか、目が離せない。
18年間ずっと選挙を支えてきた家族やコアスタッフからは「選挙が楽しい」という言葉が出てこないが、今後コミットを深めるであろうオガココのメンバーが、次も「選挙が楽しい」と言えるのかも気になるところだ。

映画としては、小川さんを応援するものではなく、小川陣営にとってマイナスになるシーンもあった。繰り返しになるが主人公は有権者である。
それでも、完全に中立な視点であったとは言えないと思う。ただそれは平井陣営が途中、急に撮影を認めなくなったことも理由の一つではある。映画チームからの見方しかできないのでなんとも言えないが、あのおじいさん、警察呼ぶ必要は本当にあったのか、大島監督を演説会に入れであげても良かったのではないか。そのくらい陣営が追い詰められていたということなのかなぁ。

前作では、4分の1くらい泣きながら見ていたのだけれど、テイストが違うので今回は一滴の涙も出なかった。そもそも映画として泣かせにきたのも、最後の娘さんのスピーチくらいか。あのスピーチは胸にくるものがあった。
他方、小川さんが当選したシーンなど、彼の周りで涙を流す人々があまりにも多かった。本人や、血縁関係のある家族はともかく、いち支援者があんなに泣けるということは、小川淳也という人間がどれだけ魅力的で、小選挙区で勝てないということにどれだけの苦しみを感じていたのか、推して知ることが出来る。普通なら、上司とはいえ、62のおじさんが島嶼部に一時的にでも移住しようと思うだろうか。
ある意味でこの物語の裏主人公は、小川淳也という人間に惚れ込んだ人々なのかも。

「ビジョンが馬鹿デカイがあまりにも細かいこと気にする」
前作からも感じていたが、これが小川淳也という政治家である。だからこそ演説では天下国家を語り、根回しもなく突然、代表戦への出馬を表明したり、維新取り下げ問題で猪突猛進になったり、ジェンダー云々人の意見に耳を傾けすぎて訳が分からなくなるのだろう。

そんなふうに映画を見ていたからこそ、最後のシーンで意外にも本人がそれを少なからず自覚していたことには驚きである。この映画を通じて思ったのは、兎にも角にも小川さんのそこは全て「小選挙区で勝てないことに対するコンプレックス」から来ているのだろう。今回、奇しくも51対49で小選挙区当選を決めたからこそ、今後、小川淳也という人間がどう変化していくのか、散々言ってきた49をどのように背負っていくのか、注目したい。


と、ここまで長々と書いてきたのだけれど、よく考えたらこの映画は選挙のドキュメンタリー映画なのに三候補者とも、政策に対するフォーカスがなかった。候補者というか作り手の問題だろう。時間的に仕方なかったのかもしれないけど、そこがちょっと残念かなぁ。
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