Kenjo

さがすのKenjoのレビュー・感想・評価

さがす(2022年製作の映画)
4.3
「今日映画見に行くんだーー」
「何見るの?」
「さがす。」
「あっまだ決めてないんや」
「いや、『さがす』って映画よ」

こんな軽いノリで見に行ってみたけど、衝撃。めちゃくちゃ素晴らしい。
今年の邦画の中で大当たり作品なんじゃないかな。

佐藤二郎演じる父が、「指名手配犯と会った。つかまえて300万もらってくるわ」と家を出て行き、父を追った少女は父の名前で働いている指名手配犯に出会うというあらすじを読んでから映画を見た。
これだけでもちょっと予想つく残酷なエンディングで楽しみやったけど、それを余裕で裏切ってくる。しかも何度も何度も裏切られる。

途中から何も信じられなくなって、清水尋也の目みたいな瞳孔ガン開きの目で映画を見つめてた。

小物の使い方とか、ミスリードのさせ方とかめっちゃ上手いなと思った。片山監督がポンジュノの助監督を務めたって話を聞いてなるほどなと思った。パラサイトに近い部分あるよね。えぐいほど真っ直ぐに描く社会格差とグロいシーンの使い方のバランスとか。

見たら絶対面白いとは思うけど、かなりショッキングなシーンが多いから心臓弱い人とかグロいのが苦手な人はあんまりみんながみんなにおすすめできないのがもったいないところ、、

舞台が西成というのもかなりリアリティあっていいよね。そういうことが起こり得てしまう場所ではある、、西成見学しに行った時に歩いた場所とかもロケに使われてておー知ってる知ってる!ってなった。

ただの殺人犯じゃなく、深い社会的事情が重なってるところがこの映画の深さを産んでると思う。犯人の言い分にも少し納得し同情してしまう部分があるという。

太宰治の『斜陽』で直治という人物の遺書にこんな一節がある。
「人間は生きる権利があると同様に死ぬる権利もあるはずです」
この一節が好きなんやけど、死ぬ権利は個人的に認められるべきだと思うんだよね。つまり安楽死制度。
昔の多産多死の時代には生きれなかった弱い人間も現代では生き延びることができていて、それが精神病やったり虚弱体質な人間やったりするんだろう。他にもALSみたいな辛い病気や、生きてるというより生かされている存在も世の中にはきっといる。もしそのような人が生きづらい、もう死にたい、死ぬ方がましだと考えているのならば、それは本人の意思を尊重し、安楽死ができるような制度設計がなされるべきだと思う。この現代医療の死にはさせないけど人間らしく生かすとは言わない医療も限界あると思う。

最後、フラッシュバックするシーンで妻の幻影を見るのはかなり罪の意識の表れなんだろうなと思う。愛する人を苦しみから解放するってもはや愛なんじゃないかって思うけど、ちがうんかな。倫理的?法律的に?アウトではあるけど、もし間接的にでも自分で手を下さなかったら罪とは感じなくなるのかな。そのへんどうなのか気になる。考え始めるとしんどくなる。

清水尋也、伊東蒼、佐藤二郎のほぼ3人で出来上がった映画なのに、本当によく出来てる。もう一回見たいと思えるのはきっとすぐではないけど、きっともう一回見てしまうと思う。
Kenjo

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