たけちゃんまん

さがすのたけちゃんまんのネタバレレビュー・内容・結末

さがす(2022年製作の映画)
3.4

このレビューはネタバレを含みます

“父“はなぜ、消えたのか

母が母の体でありながら笑顔を失いかつての母で無くなっていったように、父も父で無くなっていってしまった。
自分の手で殺めてしまいかけたという悪い記憶が靴裏のガムのように頭から離れなかったのだろう。絞殺する時に浮かんだ笑顔でようやくそのガムが取れた。しかし同時にその瞬間、娘との間に見えない高いネットが架かってしまう。これまでに積み上げてきた親子の絆のラリーももう空虚なものでしかなくなる。
一方の犯人は一貫して猟奇的な純粋悪のどうしようもない罪人のように思える。しかし、彼が殺される時に流した涙やクーラーボックスのビールを見る限り、本当に救いようのない人間ではない。彼はかつて「生きていれば何かいいことがある」と軽々しく言う人々に怒りを覚えていた。おそらく自分自身も辛い過去があったのではないか。そして“人間“に絶望してしまった。だからこそ少し仲の良いパートナーが出来たと思った矢先の裏切りに悔しさと虚しさを抑えきれずに涙したように思う。

父と娘の決定的な違いは、塞ぎ込んだか否かではないか。娘は助けを高らかに求め、その中で助けてくれない人や義務的に助けてくる人、そして本当に自分の事を心配してくれる人に触れる。辛い状況でも判断力を鈍らせない。一方で鬱になってしまった父は、助けを差し伸べてくれた男が悪魔だと気付けずに頼ってしまった。父が塞ぎ込んでしまったのは娘を想って気丈に振る舞ったのもあるのが皮肉。
現代社会においても、追い込まれた人間は真っ当な判断が出来ない。多くの人間が死に際に死にたくないと言ったように、自殺願望を心から持ってるのかどうかも分かっていない。簡単に安楽死というが、その辺りの考慮が抜けているのではないかという批評もみてとれた。

ホームランバー=家が建つ=再建=復活