ひきこもりにゃんこ

さがすのひきこもりにゃんこのレビュー・感想・評価

さがす(2022年製作の映画)
4.0
見た。

前作「岬の兄弟」みたいに感想を書かないと消化出来ないよ。
片山監督!でも「岬~」よりは商業作品としてヒットを狙っていて見る層を一般まで広げなきゃならず、今作は監督の少しの迷い(前作に比べたらの話)を感じました。

概ねテーマは「安楽死」「生への渇望」

映画パートは
娘の目線の「起」
山内の目線の「承」
父の目線の「転」
娘&父の「結」

「こんな夜更けにバナナかよ!」にも出てきましたが、介護される側に(介護して貰って申し訳ない)って思わせるような介護をしちゃいけないんだな。
「こんな夜更けに~」の主人公は「障害者の当然の権利を使って雇っているんだからあれこれ要求して何が悪い」って態度でいて生涯を楽しく全うした。
しかしそんな風に思える人は本当に稀で、やって貰う事に対して「申し訳ない」って思っちゃうし、介護する側も「やってやってんのに」って心の内が態度に現れたりする。弱者と強者の関係が出来ていて、それは生徒と教師だったり、貧困層と富裕層だったり、形は変わるが「真の平等社会なんか無い」って思わされる。

以下から多少ネタバレあります。

この映画でも娘が父親を捜索して、先生が「こんなにしてやってるのに」という上から目線が娘には堪らなく嫌だった。娘に唾かけられたシスター同様。娘は母親の介護時代から偽善者達に沢山嫌な思いをしてきたのだろう。
で、父親。愛する人の望みを叶えてあげたいと思いながらも、愛する人を失うことが怖くて自ら手をかけれなかった後悔を引き摺るし、生きてくためにはどうしても「金」がいることの現実。
鬱になってから日雇労働者でしか稼げなくなり貧困生活による見えない未来。
貧乏は心を追い詰めていく。
山内は他人に興味が無いが自分は生&性への執着がある。そんな山内が(ラストの描写で)少し愛着を持った父親はもう人間の心を失っていたのかもしれない。だから山内も心を開きかけたのかもしれない。

ここのサイトのレビューで若干不人気だった中学生のおっぱい&じじいのピンクコレクション描写は、性=生きることの象徴だと思っていて私は「有り」です♪生への執着って傍から見るとダサかったりする。

片山監督のそういうダサさを作品の合間合間に入れてくるから、ただ重い作品にならずどこか笑えるような脱力させるシーンを作ってくれる所がすきです。
そしてリアリティある演出。
ちゃんと敷き詰められてないシワの寄ったカーペット。カビ臭そうなカーテン。湿ってそうな布団。寒いからコタツに足突っ込んで寝る。
介護できちんと寝れないから椅子で寝る父親が母親の死後も椅子がベッド代わり。
あんな汚い生活で足の裏のとこが真っ白い靴下は違和感があるから観客を困惑させる伏線。
私は子供の時以来ガムを踏んだ記憶が無いから恵まれた環境だな。とか。きちんと貧困の臭いまで伝わりそうな演出でした。

話は戻ります。

皮肉なことに本当に死にたい人がなかなか死ねないのも現実。一回目の依頼でも死ねない。2回目の飛び降りでも死ねない。安楽死したいのになかなか楽に死ねない。
そして「安楽死」はその人が望む形じゃなきゃ「安楽」にならない。母親は父親に首を絞めて欲しかった。最後に見た顔が山内は嫌だっただろう。

父親は人の心を失ってしまったままで娘の元に戻ったから、娘は「忘れたらあかんで」って釘を指したのかもしれない。
パトカーの音に「迎えに来たで」は大阪人のジョークかもしれないし、本当に迎えに来たのかもしれないし。どんな形でも娘が付いていて人の心をさがして取り戻せば父親は罪を償うだろう。