はい

あのことのはいのレビュー・感想・評価

あのこと(2021年製作の映画)
4.5
「あのこと」は、アニー・エルノー著「事件」の映画化である。

「事件」を自身の身に負うリスクのないお前のような奴が安全圏から喋ってんじゃねーよと思われそうだが、

「作中に纏わりつく男性の影」
「生殖における男女のあまりにも大きいリスク勾配」
「女性の心身の選択権と男性の権威主義」
「生殖に関する各国の現状」

これらがあまりにもグロテスクではっきりと気持ち悪くなった。
例えば日本でも、日本産婦人科学会や生殖医学会の中枢を占めるのはほとんど男だし、その男中心組織が利益や利権を手放さず経口避妊薬の望ましい入手環境が整備されなかったりしている。毎年、若い女性がトイレで出産した児を遺棄し逮捕されたとのニュースが何度も流れてくる。
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映画「あのこと」は、著者であるアニー・エルノーの身体と社会に起こった「事件」に対する証言であり告発の記録である。
この出来事が「事故」ではなく「事件」なのは、歴史的に宗教的にそして意図的にどう考えても他者介入のある理不尽な「事件」であるからだ。原題である「happening」をこちらに訳したのは英断。

自伝形式で客観的かつ冷静な眼差しと共に語られる原作と比較して、
映画では極めて残酷な焦燥感を一人称「体験的」に映していた。
妊娠周期のカウントアップを章区切りに用いるのがまず効果的すぎる。爆発しないと死んでしまう時限爆弾のように恐ろしい。
この爆弾が、小説の
「榴弾の炸裂のようにあれが飛び出してきて、羊水がほとばしり、ドアまで広がっていった。...」
という描写に繋がるのか。。。

語りたいことと語らなければならないことが、語れることよりもあまりに多すぎて言葉が詰まってしまう。
はい

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