シカク

あのことのシカクのレビュー・感想・評価

あのこと(2021年製作の映画)
4.3
1960年代のまだ法律で中絶が禁止されていたフランスを舞台背景に、いわゆる望まぬ妊娠をした大学生アンヌの未熟でもあり気丈に立ち回る姿を等身大で描かれている。

序盤は淡々と平坦な印象の中、パーティー後の翌朝鏡の前で自身の体を凝視するシーンを契機に、当時の中絶が禁止されていたという時代背景とそれに直面する当事者という構図が徐々に浮かび上がる。

アンヌがサシで誰かと話すシーンが多く挿入されているが、どちらか一方の後頭部越しのアングルで顔が見えてる方見えてない方という演出が、アンヌはどいう表情をしてどういう心持ちなのかと妙に印象に残った。
あと、週ごとの経過が刻々と迫る中、はっきりとした状況説明よりも各々の自然な会話の中で上手くそれらの事や感情を無理なくウェットになりすぎずに表現していた。
局部が映る箇所や言わば刺激の強いシーンもさりげなく差し込まれるあたりも、現在で見直されつつある在りし日の世俗の一端の様で、これらのシーンは生々しさや重苦しさもあるけれどそれ以上に歴史的背景が心にありありと刻まれた。
この手のヨーロッパ(フランス)映画の中でもかなり好みだった。

アンヌが医者に「主婦になる病」と言い放つ言葉が突き刺さった。
アンヌの作中、強行的な行動も辞さない力強くもやや向こう見ずな姿を見事に演じたアナマリア・ヴァルトロメイが、こうした内容ではあるが輝きを放っていた。

最近だと「十七歳の瞳に映る世界」同様に、なかなかの重いテーマを観る者に、映画という一種の表現方法を用いて、真芯で捉えアメリカの連邦最高裁の過去の判決を覆した一件さらには社会を取り巻く法制度や人間の尊厳と健康にも根差した議題を見事に考えさせる、素晴らしい映画だと思いました。
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