がぶりえる

あのことのがぶりえるのレビュー・感想・評価

あのこと(2021年製作の映画)
5.0
またとんでもないの見てしまった。息の詰まる様な緊迫感と凄まじい焦燥感に駆られる容赦なきリアリティ。鑑賞に凄まじい気力と体力を要する超閲覧注意の問題作。

物語の舞台となるのは、人工妊娠中絶が違法だった1960年代のフランス。1人の生真面目な女子大学生が思いがけない妊娠をしてしまい、どうにかしてお腹の中の子を下ろそうとする話。

全編、妊娠をしてしまったアンナの100%主観視点で語られ、観客は彼女の身に起こっていく出来事を彼女と同時に「体験」してゆく。彼女が辿る最悪の運命を映画的な過剰演出も、綺麗事も、ご都合主義も一切抜きで、抜かりなく痛烈に描く。ここ最近の映画で一番リアル。恐ろしさも痛さも。劇中、主人公アンナがどうなっていくのか全く先が読めないし、映画が進むに連れて、妊娠から時を重ねるに連れて、ただただ不安と焦りだが溜まっていく。こっちもずっと「なんとか彼女が救われてくれ!」「未来を勝ち取れ!」と祈るような気持ちで見守っていた。おかげでずっと胃はキリキリ、肩に力入りまくりでどっと疲れた。
若干20歳の女性が1人で戦うには大きすぎる試練だし、周りの友達も背負いきれぬ責任から彼女を避け始める。こういう本当に追い詰められた時に人の本性って出るし、自分が本当に辛い時、力になろうとしてくれる友人が1番心強いよなぁ、て思った。

カメラワークはシンプルだし、曲もほとんど入っていなのだが、丁寧な表現の積み重ねでここまで没入感の味わえる映画体験はとても貴重。金獅子賞なのも納得。