そこまで可愛くはないブラナー坊や
アカデミー賞作品賞本命の一角は、ケネスブラナーが監督を務めた自身の幼少期の自伝的作品「ベルファスト」。
前哨戦となる各賞レースでの健闘ぶりや、「ジョジョラビット」的なイノセンス坊やの戦時中の苦悩を描くという個人的に好きなジャンルであることなどから、すこぶる期待値の高かった本作。
一方で「オリエント急行」や「マイティ・ソー」があまりハマらず、監督としてのケネスブラナーの力量にやや疑問も抱いていたため、それも含めて楽しみに鑑賞してまいりました。
まず文句無しの良作、ほっこりしながら全体的に楽しく観ることができました。
あらすじは、北アイルランドの首都ベルファストで楽しく暮らす少年バディが、ベルファスト内で勃発した内戦に直面することとなり。というもの。
冒頭、カラーとおしゃれな音楽と共に移動するカメラが、ベルファストに到着したところでモノクロに切り替わり本編が始まるという一連が素敵。
ベルファストの街並みのコンパクトなセットも可愛らしくてとても良い。
無邪気に戦闘ごっこから帰宅するバディが、突如プロテスタント一派の襲撃を受けるまでの怒涛の一連も、日常に降りかかる恐怖の表現としてはとても良く映せていたと思う。
あと個人的に最も良いなと思ったのは、映画とベルファストの人々の関わり。
内戦下という過酷なシチュエーションにおける逃避としての娯楽である映画。
カラーで映される「チキチキバンバン」などが顕著だが、こういった時代だからこそ音楽や映画に救われる人が多く、ファンタジーやミュージカル映画、ひいてはエンターテイメントの本質に触れるという意味で良い描写だったと思う。
全編モノクロの中であえてカラー描写とした意図がそこにあるし、その対比が1画面に収まった、舞台を鑑賞するお婆ちゃんのサングラスにオレンジのカラーが反射する演出が今作のベスト。
テーマ的にはウディアレンの「カイロの紫の薔薇」なんかが個人的には近いかなと思ったり。
映画人としてのケネスブラナーの根幹にある部分という意味で、自伝映画としての意義もよく表れているんじゃないかと思った。
なので、併せてクライマックスの両親の歌唱ダンスシーンで何となく泣いてしまった。
一方で、基本的なドラマ構成やその他演出については割と平凡かなあと感じてしまった。
ブラナー坊やが、流れとはいえプロテスタントの打ち壊しに参加してしまった洗剤窃盗シークエンスもあまり上手くないなと、チョコバー窃盗との反復表現という訳でもなし。
締め方もやや湿っぽすぎて、冒頭シーンとの対比にしても、うーんという印象。
とはいえ、やはりここまで前評判が良いのも納得のとても素敵な作品だと思いますし間違いなくおススメです。
余談:
作品賞は実はこの「ベルファスト」じゃないかなと思っていたのですが、「コーダ」でした。
個人的にはコーダはノミネート群の中でもトップクラスに好きだったのでにっこりしました。