センター分けのましゅちゃん

ベルファストのセンター分けのましゅちゃんのレビュー・感想・評価

ベルファスト(2021年製作の映画)
5.0
渋りに渋って、
今年に入ってからは
どの作品にもつけていなかった
2022年初の星5を
満を持してつけようとおもう。
3/30現在、
2022年度暫定No1の1作。
いまの自分の状況も相まってか
恥ずかしいくらい泣きじゃくった。

子供の目線から
シリアスな社会情勢を扱った作品は
多々あり、
最近だと「ジョジョラビット 」もあったが
この作品はそんな
"子供の目線から紛争を扱う"という
作品群の中でも唯一無二。

まずなにものにも染まらない少年の
無垢な目や、
監督、脚本をつとめ、
主人公バディのモデルにもなっている
ケネスブラナーが幼い頃の回想を
演出するかのようなモノクロの映像は
子供の目線から、
そこにある出来事、
そこで起こる悲劇を淡々と描く。
それらとは対照的にバディ少年、
ひいては後のケネスブラナーの
人生を大きく変えていく事になる
映画や演劇の映像のみが
非常に色鮮やかに描写されるところも良い。

紛争の渦中にあっても
子供たちにとっては正義も悪もない。
ただ、大切な故郷が、家族が、
危険にさらされ、
見たくない光景と恐怖が広がるだけ。
自分の政治的な意見や立場ではなく
ただ家族と暮らしたい、
ありふれた日常を生きたいと願う
まっすぐな少年の心を
政治や宗教、社会的立場で
縛っていく環境の変化が苦しい。
また、紛争という争いは
子供たちの日常の中に
横たわるひとつの事象に過ぎない。
だからこそ、
そんな鑑賞者から観れば
イレギュラー日常の中でも
子供たちのありふれた毎日は続いていく。

テレビから流れる悲惨なニュースを
全ては把握せず、断片的に映したり、
家族の変化や目の前で起こる暴動から
少しずつ自分の置かれている状況を
飲み込み始めていくところが
子供の目線として非常にリアル。
母や父の言動には人一倍敏感なのは
子供だからこそ、
両親の様子から
社会情勢の緊迫感を肌で感じていくところが
あくまで子供のバディから見た
ベルファストの変化として
リアルに描写されている。

それでも
学校で気になるあの子に夢中になり、
恋をして、
映画や漫画に熱中し、
たまにいたずらをし、
母に叱られ、
祖父母からお小遣いをもらい、
兄と天井を見上げて眠りにつく。
本作ならば
北アイルランド紛争の渦中、
バリケードに覆われ封鎖された
ベルファストの街でも
バディのなにひとつ変わりない日常は続く。

そんなバディの日常に少しずつ介入し
少年の人生を
大きく変えていく事になる紛争。
やがて小さな少年はその渦中で
故郷を思い、
家族や仲間の教えや愛を
その小さな身体に詰め込んで
少しずつ成長していく。

そして少年はその目で
自分の故郷と世界を見つめていく。
そんなバディの姿を
たくさんのユーモアも交えて
描ききったこの作品がたまらなく愛おしい。


またこのバディが後の
"ケネスブラナー"である事を
思えば思うほど、涙が止まらない。
彼が監督として描き、
俳優として演じた物語の原点が
この"ベルファスト"に刻まれている。

モノクロの世界の中で
彼がときめいて観たもの、
映画や演劇が
あえて非常に色鮮やかに描写されるところも
たまらなく好き。
モノクロの映像の中で
バディ少年が目を輝かせて
食い入るように見つめる視線の先に
広がっているのが、
映画や演劇の壮大な空想と冒険の世界。

故郷を紛争にさらされ、
閉塞的になった街に生きるバディが
映画の世界にぐいぐいとのめり込んで
いくところにじーんと胸が熱くなる。
彼が後のケネスブラナーである事を
知っているからこそなのもあるが、
ひとりの少年が壊れゆく故郷で
空想の世界に夢を見て
家族のコミュニケーションのツールでもあった映画の世界に魅せられ
後に自らが映画の世界で
多くの人を魅了し、夢を与える事に
なると思うと涙が止まらなかった。

ベルファストという故郷を思う
世代間のギャップやそれぞれの思いも
しっかりと描かれており
それらが全て、
少年バディの未来への背中を強く押す
トリガーにもなっている。

去るもの、残るもの、
その地と運命を共にするもの。
それぞれが故郷・ベルファストに
生きた人々の証。

ケネスブラナーの監督作や
彼について少し知っていると
ニヤリとできる仕掛けがいくつかあり
ケネスブラナーらしい作品でもあった。

眩しさと切なさと郷愁を
時に厳しく、時にユーモアたっぷりに
子供のまっすぐな目で見つめたこの作品に
胸がいっぱいになった。
剣と盾を両手に
笑顔で高く飛び上がる
ポスターのバディ少年の姿に
未来に向かって笑い、
強く進んでいく、少年の希望を見た。