ゆかふ

ちょっと思い出しただけのゆかふのレビュー・感想・評価

ちょっと思い出しただけ(2022年製作の映画)
3.6
「どこかに行きたいけど、どこに行けばいいかってわからないじゃないですか。でも、タクシーに乗っていたらお客さんが行き先を決めてくれる。それで一緒に目的地に向かえるというところが好きです」

これは、タクシー運転手である主人公の葉ちゃんが、乗客に「この仕事のどんなところが好きか」と問われて出た言葉ですが、とても印象的でした。

葉ちゃんは、照生とどこに向かっているつもりだったんだろう。
葉ちゃんは「運命」って言って欲しかったけど、その言葉を照生はどうしても口にすることができなかった。ケガをしたことが運命だと受け入れられなかったから。

彼の誕生日という1日を少しずつ回想していく話なんですが、飼っている猫が若返っていったり、植物などの小道具を使って時間の変化を表現していてリアリティがありました。

ふたりのうち、どちらか片方の美化された記憶のようでもあり、もしかしたらもうひとりの記憶を切り取ったら別のものが描かれるのかもしれない。
どこまでが美化された記憶なのか、なにがほんとなのか。

輪郭があいまいな夜景が美しく流れるなかで、夢を見ているような気持ちになりました。

時間をさかのぼっていくストーリーとは反対に、唯一順行で時間が流れる永瀬正敏さん演じる謎の男が存在感抜群でした。
彼の展開について、いろいろな解釈を聞いてみたい。私は葉ちゃんの理想というか、妄想なのかなと思ったんですが、監督の舞台挨拶によるとそうではなかったみたいですね。

照生のジェンダーがよくわからないのもいいなと思いました。若く美しいダンサーにまったくなびいていない。
もしかしたら葉ちゃんは、「とり木」の人に嫉妬したりしたことがあるのかも?と想像してみたりしました。

女性ドライバーといえば最近だと「ドライブ・マイ・カー」ですが、みさきに比べて葉ちゃんは、浮気中のクズ男にキレるなど女の人っぽいところが強い人物に描かれているように思いました。

試写会にパートナーと観に行ったのですが、ケンカのシーンでどちらに共感するかという話になり、私は照生に深く共感したのですがパートナーは葉ちゃんに共感したみたいで、おもしろいなと思いました。
観た人といろいろな点について話したくなる映画です。

唯一腑に落ちないのが、葉ちゃんのいまが幸福そうに見えないところです。冒頭で出てきた若いギャルの女の人と重ねてしまった。照生の誕生日にある行動をしちゃうところが、「ちょっと思い出した」とかいうレベルじゃなくてめちゃくちゃ引きずってるじゃん、と。笑
過去をどう捉えているかは人それぞれで、「ちょっと思い出しただけ」なのは照生の感覚なのかなと思いました。

個人的にはセリフなどがロマンチックすぎてはまれませんでしたが、恋愛映画が好きな人や、夜のドライブが好きな人はとても楽しめるのではないかと思います!
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