あお

ちょっと思い出しただけのあおのレビュー・感想・評価

ちょっと思い出しただけ(2022年製作の映画)
4.4
伊藤沙莉の淀みない笑顔を見ただけでいっぱいになってしまう胸が、いつの間にか生まれているのかもしれない。
戻れない事実への確信と等分で存在する、戻らない決断への愛情。一番の願いが叶わなくても毎日はまた別の幸せとともに続いていくこと。習慣も癖も転移し、一人にひとつだったものが二人にひとつになること。離れても残り続けること。
記憶の片隅から「ちょっと思い出しただけ」がときおり訪れるひとときもまた別の幸せとともにあると、そう散々知ってるはずなのに一つ前の幸せや最も大きかった幸せを回想してしまう私たちの癖づきを諭されるような映画だった。二人の間にある誇らしさや優しさの純度高さを演じるのに、伊藤沙莉と池松壮亮以上のふたりはいないとうんうん頷きながら劇場を出た。
あと屋敷さん、というかニューヨークのあり方をますます好きになる役どころ。「芸能人と付き合いたい」。「夏、始まりましたわ」。あのパターンで「一生幸せにするっすわ」と言い、本当にそれを全うする人を演じられる唯一のリアリティ。当てがきなのかな。演じる本人の誠実さがどの登場人物にも垣間見えた。
忘れられないような恋は忘れられ、忘れられないような日々も忘れられ、それでも残るものはあり、そうやって幾筋もの希望のなかに立っているのだと再び教えられたのが松居大悟でよかった。高円寺の雑然さも傍流する高架下も人々の顔も、歩いて分かるそのままの様相。いつも俺たちの隣にいる監督、という感覚。
もっとクリープハイプの楽曲やカルチャーっぽさが前面に出た映画なのかなと思っていたけれど、作品としての第一印象でしっかり心動くだけの余白があって、「これが"いい意味で予想を裏切られる"というやつか……」となりました。
エンドロール、メイキング撮影メンバーにエリザベス宮地さんのお名前。メイキングも観たいなー。
あお

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