CHEBUNBUN

ガール・アンド・スパイダーのCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

5.0
【狭い部屋、ウザい人、そこに聖域はあるのか】
カイエ・デュ・シネマベストテン2021にて8位に選出された『The Girl and the Spider』を観ました。Ramon Zürcher&Silvan Zürcher監督のことは全く知らなかったのだが、これがとてつもなく面白かった。

部屋の設計図が映し出される。そして実際の部屋が映し出され、忙しなく人が引っ越しに伴う作業を行なっている。その中心にヘルペス持ちの女性マーラが突っ立っている。彼女はフラフラ部屋をフラつくが、全く作業の手伝いをしようとしない。リザと会話をすると、少し嬉しそうにするが、他者の眼差しや声かけによって邪魔されるとムッとなる。どうも引っ越し前に二人は親密な関係になっていたようだ。しかし、リザはマーラを弄ぶように離れていく。

本作は、引っ越しを中心にマーラとリザの関係が変化することによるモヤモヤした感情を眼差しや人間の運動の圧倒的な手数でもって紐解いていく。そのスタイリッシュな演出に100分間まったく目が離せない。二人が会話をし、マーラが少し微笑むとカットが切り替わり、リザの母親の鋭い眼差しが映り込み、関係が崩壊するのは序の口。他の登場人物の思惑まで画の切り返しが巧みに使われ始める。扉を閉めると、手前に親密な関係となっている群ができあがる。その前を扉を持った女性が横切る。次のショットでは、扉を閉めたことで親密な関係から切り離され、個の領域に入った女性が映し出されるのだが、彼女の背後を取る人がいる。

まるで、『トップガン』のようにいつの間にか背後を取られてしまう快感がここにあるのだ。また、背後を取られる、死角から眼差しが向けられるアクションは、葛藤を抱える者が一人の世界に入るのを阻むことを示唆している。我々も、一人になって考えたいが、他者の介入によって土足で踏み込まれ嫌な思いをすることがあるだろう。意中の人と良き時間を過ごすには群の中に入らなければいけないが、その行為には一人の時間を犠牲にする代償がつきもの。リザとマーラの関係でなく、リザの母親含め、無数の人の思惑が、仕舞いには犬までもが参加し、蜘蛛の巣上にアクションを紡いでいく。この異様な宇宙にひたすら興奮した。

無論、人間関係があまりに複雑なので一度で理解したとは言い難い。再観して、またこの宇宙へと飛び込みたいものだ。
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