ジョー・マンテーニャ原案の戯曲を舞台演出も担当したスチュアート・ゴードンがテレビ用に再演出(共同監督パターソン・デニー)。要は『アルプススタンドのはしの方』だが賭け酒絶叫の乱痴気騒ぎ、嫌な奴への意趣返しが投げるというワンアクションなのが良い。
野球映画なのだが、ここでカメラが向けられているのは選手ではなく観客。また群像劇でもあり、同様の『ビッグ・リーガー』や『エブリバディ・ウォンツ・サム!!』などで見られた未熟さや幼稚さを全面的に肯定し開放できる場所としてのスタジアムが描かれる。しかし、その熱狂は試合が終わるまでの期間限定のもので、寂寥感のある静寂とともに各々のキャラクターが帰還すべき生活がほのかに浮き上がってくる。また賭けという金銭のやり取りが各人物の経済状況も暗示する。そこには野球から熱狂を得られるが栄光は得られない観客という存在の期間限定の儚い実存が見えてくる。とはいえ、栄光には無縁の観客にもささやかながら誇りある行動は可能で、それは最も野球から程遠い見た目のイアン・パトリック・ウィリアムズ(劇中ギーグとバカにされる)によって行われる。投げるという単純なアクションが個人のプライドと野球というスポーツの純粋さを守る。