朝田

リコリス・ピザの朝田のレビュー・感想・評価

リコリス・ピザ(2021年製作の映画)
5.0
最高。散文的に紡がれていくバカバカしい時間の中に青春の多幸感と儚さが詰まっている。全編とにかくよく走る映画だ。劇中様々なシチュエーションで登場人物が走るというアクションが反復され、その度にニュアンスが変わっていく演出の細やかさに胸が踊る。特に再会した主人公二人の男女が抱きしめ合い、何も語らせずに昼の街中へ駆け抜けていく一連の流れを捉えた場面でのカメラワークの躍動感と、そこに照らされた柔らかい光が生み出す高揚感は凄まじい。二人が走ること自体がドラマを生み出す。そうした役者の動きに重点を置いた作りになっているからこそ、箱庭的に70年代のLAを再現しても、閉鎖的な作りにはならず、抜けの良い空気感に満ちているのだと思う。直線的なストーリーは無い代わりに手持ちのラフなショットや、長回しなど見せ方は豊富でテンションが途切れない。細部に至るまで全てが楽しい。ポール・トーマス・アンダーソンによる、LAとそこに行き交う人々への愛と郷愁に満ちた青春コメディ。大切な映画になった。
朝田

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