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リコリス・ピザのYKのレビュー・感想・評価

リコリス・ピザ(2021年製作の映画)
4.0
子役上がりで大人社会に精通している15歳のゲイリーと、厳格な親のもとで育ち社会的に未熟な25歳(?)のアラナ。卒業写真の撮影会という場で出会った2人だが、廊下を歩きながら偶然目が合って出会う最初の長回しに、一気に心が掴まれる。10歳の年の差がありながら、育ちや性格が正反対ながら、どんどんお互いが気になっていく2人。だが、我が強いので喧嘩も多い。美男美女でもないし、2人の行動にはまっったく共感もしないが、出会う人々みんな癖が強いので自然と応援したくなる。

恋愛映画としては、かなり変。主人公2人はウォーターベッドの通信販売をはじめたりするし、出会った大物俳優とバイクに乗ったり、めちゃくちゃ怖い映画プロデューサーに目をつけられたり・・・。個人的には「そのウォーターベッドに何か意味あるの?」とか「そのキャラ要る?」とか思ってしまうが、全部監督が見聞きした実話をもとに作っているという。だから実際、映画の本筋にはたいした意味のないエピソードばかり(でも、各エピソードはかなり面白いし観終わった後に強く印象に残る)。そんなに脱線ばかりして大丈夫?とも思うが、そういうときは主人公が「走る」!困ったらすぐに走り出す2人。走ると次の展開に進む。強引だが、その爽快感と疾走感ですべてが納得させられてしまう。

タイトルの「リコリス・ピザ」とは、「リコリス(不味いお菓子)色のピザ=レコード(LP盤)」という意味で、監督が通っていたレコード店の名前。サンフェルナンド・バレーはハリウッド近郊にある映画の街で、監督が生まれ育った場所でもある。この映画は、監督の半径3メートル以内にあったものを詰め込んだような作品だ。最近思うのは、同年にアカデミー賞にノミネートされた『ベルファスト』しかり『ハンド・オブ・ゴッド』しかり、監督の故郷や子供時代をノスタルジックに描いた私小説的な映画が多いということ。今はそういうのを作りたくなる時代なのかなーと感じる。
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