たくみ

偽りのないhappy endのたくみのレビュー・感想・評価

偽りのないhappy end(2020年製作の映画)
3.3
たまたま横浜で時間が空いたので近くで上映していて気になっていたため鑑賞。

監督は松尾大輔さん。
園子温の助監督だった期間が長かったようでイズムみたいなものは、確かにあるような気がしました。
キャストの方に敢えて役について深く説明せず、役者さんが作り上げてきた人物像を具現化することに注力していたみたいです。


ストーリーは癖があり、物語の展開が読めなかった。
姉妹を筆頭に登場人物にどこか陰がある。
その登場人物の思いが見えそうで見えない。
そういったもどかしさを良い意味で感じられた。
しかし、ストーリーが上手く繋がってる所とそうでない所の差が激しく、惜しいと感じた。

妹は行方不明になってから一切出てこず、結局どうなったのかわからない。
敢えて描かないという演出なのかもしれない。
しかし、前半は中心人物だった妹が描かれないのはどうしても違和感を感じてしまった。
妹がお金を稼ぐ為に風俗で働いて理由もよくわからないままで、人物像が見えてこなかったのが残念だった。

風俗店の店長が中盤、包丁で刺されたのに、警察を呼ばないのも現実的ではないと感じた。
(刺し傷あるから警察は事件性を疑うと思うねんけどな、、、、)
不法侵入されてるのにそれについてもノータッチなのも少し無理があると思う。


描いている人間関係などについては考えさせられるシーンが多かった。
「兄弟姉妹のことは案外知らない」というのはかなり共感出来た。
自分にも兄弟姉妹がいるけど、ほとんどわからない。
どんな友達がいるのか、恋人はいるのか、好きなもの。
バイト先は知ってるけど、ほんとに働いてるのかは実際に見たこと無いからわからない。
はっきりとわからないことだらけ。
本作では妹が上京してくるのだが、主人公の姉は核心的な理由がわからない。
わからない上に、勝手に妹の考えを決めつけて行動している。
「なにかあったら相談してね」「心配してるんだから」などと発言しているけど、その割には妹の事は何も知らない。
「何も知らないくせに」と感じている側からすると、優しい言葉を投げかけられても懐疑的になってしまうのかもしれない。
優しさのつもりでかけた言葉が、その人に届くまでに意味が変わっているかもしれない事の恐怖を感じた。


もうひとつ気になったのはタイトル。
誰にとって『偽りのないhappy end』だったのか、というのは鑑賞後もしばらく考えてしまった。
姉のエイミにとっては自分の中の正義を貫いたことがハッピーエンドだったのかもしれないし、ヒヨリにとっては真実を知れたことがハッピーエンドだったのかもしれない。
登場人物それぞれにとってのハッピーエンドが、何なのかを考えることが出来るので面白かった。


主人公に携帯を持たせないのは結構な発明だと感じた。
現代社会が舞台の映画で、携帯を持っていない事がこんなにも違和感になるとは。
スマホを持っていない理由も、決して非現実的なものではなく、「そういう人もいるかも」と思えるものだった。
そんな主人公が携帯を持つことで、心情の変化を感じ取れる。
この辺りの描き方は上手だなと感じた。

姉のエイミはかなり自暴自棄な人物として描かれており、そんな主人公に感情移入出来るかどうかで評価がわかれそう。
個人的にはヒステリック過ぎるので、どうしても感情移入出来なかった。


キャスト陣では、河合優実さんの演技が好きでした。
願わくばもっとこの人の演技が見たかった。
映画では『サマーフィルムにのって』『佐々木、イン、マイマイン』等でしか観たことないけど、映画によって雰囲気が全然違う。
この世代の中では群を抜いてカメレオン俳優だと思う。
今年公開の映画にもかなり出るみたいなので今後要注目の女優さんですね。


今作は保守的にならず挑戦している作品である事は間違いないと思う。
そして鑑賞する人たちのために余白をかなり残している。
そんな余白を感じられる映画が好きな方はハマる作品かもしれないです。


【その他メモ・独り言】
・滋賀はあんなに曰くつきじゃない。
・琵琶湖って場所によっては汚いよね。
・誰も住んでない実家の光熱費誰が払ってるんやろ。
・風俗店の壁一面にあった行方不明者のポスターの真実は店長が言ってた通りなのか。
・主演の鳴海唯さんは実際に携帯持たない生活をやったらしい。素晴らしいプロ根性。
・この映画のキャストさん観たことあるってなる人が多い。
たくみ

たくみ