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ヴェラは海の夢を見るのmのレビュー・感想・評価

ヴェラは海の夢を見る(2021年製作の映画)
4.2
我が母に捧げる、この一言で映画全体がひっくり返った。
映画的な奥行きとか表現がされなかったり、あと一歩なのが歯痒かったのは正直なところだが、この一言で描かれている事象が作品として現実味を帯びてくる。それは勿論フィクションとしての完成度ではなく、作者のドキュメンタリズム的な意識の強度に依るところが大きい。

面白い!と思えたのは、劇中劇でガラスの箱に入れられ白塗りにされたサラが、タバコを吸いながら外を見つめているカット。ここの虚構と現実のバランスはすごい。逆に惜しいなと思ったのはサインをした帰りにバーで若者の歌を聞き、涙して帰路につくシーン。あの感情の飛ばし方はとても分かるが、一歩こちらに届き切らない印象があった。
ただ、この作品で1番好感を覚えたのは男性(父)を描写していることだった。登場する男性たちに対しての姿勢に(スーパーでぶつかる男性二人はあまりにも演出が短絡的だと思ったが)調和が取れている。アフメトの描き方はとても難しいところだが、葛藤とプライドと父性とが各シーンで何十面層にも変わっていく。伯父たちを送るシーンの笑顔然り、仕事場まで打診にくるシーン然り、サラと共に遺品を取りに来た時の車窓から見える笑顔然り、、、
女性を描こう(ましてや守ろう)というような傲慢さや、男性と女性の二分化に辛うじて陥っていないのは、"我が母に捧げて"いることと、社会に射程が向かっているからだと思われる。
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