ハヤシ

マイスモールランドのハヤシのレビュー・感想・評価

マイスモールランド(2022年製作の映画)
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ありがとうルフトハンザ!これは絶対に観なきゃと思っていたのに上映中にタイミングを合わせられなかった映画。まさか機内で観られるとは思っていなかった。ルフトハンザ株の上昇待ったなしです。

幼い頃に生まれた地を離れ埼玉に暮らすクルド人のサーリャの物語から、自分がこれまで知らずにきてしまった現実をまざまざと知らされ、隠しようがないほどダバダバ泣きました。

台詞や撮り方の一つひとつから込められた意味が感じられるような繊細な作品だった。サーリャ1人がお父さんのところへ行って話す最後のシーンは特に凄かった。

クルドで植えたオリーブの木の話をしたあと、「目を閉じて。何が思い浮かぶ?」と問うお父さん。「なんでだろう。ラーメン。みんなで行ったとこ。」と答えるサーリャ。サーリャの中にクルドの記憶はほとんどない。お父さんの立場で考えてみれば、それは切なくも思える。でもお父さんは「お腹空いたの?」と笑顔で聞く。音を立てて麺を啜るフリをして笑いながら、「これからは好きなように食べて」と言う。その笑顔が、画面に映る最後のお父さんの顔。その後祈る姿はガラス越しで、以降もうお父さんは映らない。

サーリャの中にクルドがほとんど生きてはいなくとも、祈りの言葉を唱えることはクルドであることを示している。クルドの要素を自分のものとして意思で選んでいると解釈しても良いのか。お父さんの前だからあえてそうすることを選ぶのか。

無愛想なように見えて人の機微を余さず感じとっているソウタというキャラクターも凄かった。「クルド人日本語分かんない人も多いから、いろいろ頼まれてて」と言うサーリャに対する「もう先生じゃん」という返し。かける言葉や行動の一つひとつがあたたかくて、自分もそうあれるだろうか、そうありたいと思わされた。

タイトル、『マイスモールランド』について。似た言葉であるワールドに比べて、ランドは土地という意味合いが強い気がする。土地を持たないクルド人の物語として、そこはワールドではなく、ランドでなければならなかったのではないか?そういう意味が込められているのかなあ、とか。

自分が日本人だというだけで、日本に住む人に「日本から出ていけ」という資格があると思い込んでいる人、なんなんだろう。そして、異国のものに対して無邪気に「お洒落」「かわいい」ということについても考えさせられる。

これを観て、自分勝手に感動してるだけじゃダメなんだよな。最後のシーンのサーリャの目の力強さ。その美しさ。そして、その目の力強さを生んでしまう理不尽さ。覚えていたいと思う。
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