SANKOU

マイスモールランドのSANKOUのネタバレレビュー・内容・結末

マイスモールランド(2022年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

クルド人が国家を持たない難民であること、そして日本でもクルド人の難民を支援しようとする団体が存在することは知っていた。
しかし日本で暮らすクルド人の生活の実態までは知らなかった。
日本が難民に対して寛容でないことは承知のつもりだった。
もちろん日本にやって来る難民をすべて受け入れることは難しいとは思う。
しかし、何故政府は難民申請は弾くことが前提であるかのような冷たい態度を取り続けるのだろうか。
今の日本は外国人の労働力がなければ社会が立ち行かなくなっているのにも関わらず、政府は彼らに対して非情だ。
この映画でも役所の人間の、まるで血の通っていないような姿が描かれている。
本心では難民の力になりたいと願っている職員もいるだろう。
しかし心を無にしなければ、おそらく彼らも自分を保ち続けることが出来ないのだろう。
だから、問題の大元は政府の対応にあるのだと思う。
冒頭のクルド人の結婚式の様子はとても華やかで、彼らの表情はとても幸福に満ち足りているように思われる。
しかし、映画はすぐに厳しい現実を突きつける。
決してどん底の生活を描いた内容ではないし、全体的にも暗いトーンの作品ではないが、この映画の至るところに不寛容が見受けられる。
サーリャは自分がクルド人であることに誇りが持てない。
むしろ、学校の同級生には自分をドイツ人だと偽っているほど、隠しておきたい事実だ。
日本語とクルドの言葉を両方喋ることの出来る彼女は、クルド人の労働者たちに頼られてしまっている。
母は既に亡くなっており、彼女は父マズルムと妹のアーリン、弟のロビンと暮らしている。
アーリンもロビンも日本で生まれ育ったために、完全にアイデンティティーは日本人だ。
しかしマズルムの難民申請は突如却下されてしまう。
マズルムは国に戻れば命の危険にさらされてしまう。
しかし彼がいくら訴えても結果は覆らない。
役所の職員はマズルムに働くことも、申請が通らなければ彼らの住む埼玉から出ることも禁じてしまう。
これはもう国外から出ていけと言っているのと同じことだ。
ビザが降りなかったことで、サーリャの将来にも陰りが出てくる。
ばかりか、アーリンとロビンと共に生まれ育った日本から出ていかなければならない可能性もある。
この映画の中でサーリャは自分のアイデンティティーを探し続ける。
彼女の心の拠り所となっているのは東京に住む聡太だ。彼は一緒に大阪に行こうと彼女を誘う。
しかし二人の間にある壁は大きい。
何も悪いことはしていないのに、ただ存在しているだけで、追い詰められていく彼女らの姿を見て、同じような想いをしている難民の人達はたくさんいるのだろうと思った。
中には日本には二度と来たくないと思う人もいるはずだ。
観ていて憤りと恥ずかしさを感じた。
救いだったのは、マズルムもアーリンもロビンもどこかユーモアがあって明るさを失わなかったことだ。
そしてサーリャの心に最後まで寄り添い続けた聡太。
サーリャ役の嵐莉菜は今回初めてスクリーンで観たが、憔悴しながらも、それでも力を失っていない眼差しの強さが印象に残った。
「私たちの未来に光がありますように」という祈りの言葉が、クルド人の芯の強さを表しているようにも感じた。
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